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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第八章 北国
100/106

100.魔王の治世

 8年前、インドール公国がまだ連邦に加盟していない頃。

 平和な小都市バクタの生活は、突如として蹂躙された。

 数万の魔王軍が国境を越え、侵攻を開始したという情報が届いた時には、すでに遅かった。

 矢の雨が降り注ぎ、あちこちで火の手が上がる。

 すぐに冒険者たちが迎撃にあたった。

 首都へ援軍の要請をしに、使者が出された。

 だが、全ては無駄だった。


 魔王軍の幹部と名乗る者。

 その者が張った結界は、内外からの干渉を不可能にした。

 中に侵入した魔王軍から、住民は逃げ惑うばかりだった。

 抵抗した者たちは皆殺しにされた。

 私たちは投降し、捕虜となった。


 戦いが終わり、全員が死ぬか捕虜となった後。

 彼らは私たちを整列させた。

 男や力の強い女は、奴隷として魔大陸へ連れて行かれた。

 私たちは、あの薄汚い小屋に押し込められた。

 小屋から出され、町の周りの見張りや兵士たちの食事の調理といった労働の繰り返し。

 一日に与えられたのは、砂や泥の混じった水と、兵士たちの食べ残し。


 魔力を封じる枷は常につけられ、水を浄化して飲むことすらままならなかった。

 ましてや、逃げることなど想像だにもしなかった。

 劣悪な環境の中で、一人、また一人と死んでいった。

 彼らは、私たちの嘆願を聞き入れ、死んだ者たちを埋葬すると言った。

 だが、外で見たのは四角い穴に雑に放り込まれた遺体。

 結局、当初いた800人のうち、生き残ったのは500人。

 心はとうに壊れていた。


 ある日、兵士の一人がやってきて、ここから撤退することを告げた。

 それは、これから食料も与えられず、静かに朽ちていくことを意味する。

 私たちは、口だけだが、初めて抵抗した。

 幸い、殺されることはなく、兵士たちは荷物をまとめて去っていった。

 その3日後、物音に助けを求める声を上げれば、あなたたちが来ていた。



「……なるほど」

 皆、だいたいこう言うことを語った。

 総合すれば、魔王軍の捕虜への態度は非人道的なものであったということか。

「じゃ、魔王軍に情けをかける必要はないな。

 それは良いとして、1番気になるのは……」

「結界を張った魔王軍幹部、ですね」

 いつのまにか回復し、服についた煤を払っている荒川が混ざってきた。


「その幹部の名前とか、外見の特徴とかを教えてくれ」

「うーん、8年前のことなので、あまり覚えていませんが……。

 女性だったと思います。あと、修道士(プリースト)みたいだと思ったのは覚えています」

 こちら側では、結界を張るのは修道士の仕事だから、あちら側でもそうだろうな。

「なるほど。じゃあ、魔王軍の兵士の種族や性別の構成について……」

「か、神埼くん、この人たちも辛い思いをしてるし、そんなこと思い出させるのは可哀想です……」

「そうだぞ。せめて公国でゆっくり休んでからの方がいい。怪我してる人も多いし」

「しーちゃん、人の気持ちが分かるようになろうね」

 荒川、井川、三城に立て続けに非難され、これ以上の情報入手は断念した。

 ……待て三城、お前は人の気持ちが分かるのか!? すごい能力だ。


 転移魔法術師がいないので、カーリへ転移することはできない。

 転移魔法というのは、行きと帰りがセットになった魔法。

 住民たちはここへ転移魔法で来ていない以上、転移は不可能なのだ。

 かといって、象車や歩きは体に負担がかかる。

 結局、騎兵隊の数人がカーリへ象車で戻り、転移術師を呼んでくることにした。

 町中で見つけたほうれん草の山を食べさせたら、パオーンと雄叫びを上げて、全速力で走り去っていった。


 俺たちも、芽が出かけたジャガイモやらシナシナのキャベツやらを夢中で食べた。

 回復魔法や解毒魔法があるので、多少古い食べ物を食べても問題ない。

 素晴らしい世界だ。

 腹も膨れた頃に転移術師が現れ、住民たちはこちらに感謝の言葉を捧げながら、魔法陣に消えていった。

 気の利くことに、数週間分の食料の山を持ってきてくれたようだ。

「……では、進軍を再開する!」


 それからは、実に快適な旅路であった。

 水系の魔術師(ウィザード)のおかげで車内はひんやり快適、食べ物が腐る心配もない。

 我々炎系統は、調理や夜間の明かりとして大いに役立った。

 手綱が切れれば盗賊たちが代わりを提供し、剣士(ソードマン)衛士(プロテクター)たちは野営での心強い護りとなった。

 空腹で頭の回らなかった以前とは違い、皆の頭は次々とアイデアを生み出す。

 合わせて6両の象車が狭苦しいことを除けば、アルトにも匹敵するほどの生活水準だ。


 1週間後。

 コルメ共和国軍が全土を奪還したとの報せが届いた。

 インドール公国も、我々以外の軍団が敵集団の殲滅に成功したとの吉報が。

 3日ほど経った後には、コルメ共和国の部隊と出会い、新たな国境として杭が建てられた。

 今まで絶望的なまでに攻められていたのが夢だったかのように、占領範囲は広がっていった。

 アルトに半数の冒険者が帰還し、インドールやコルメの軍隊も大半が本国に戻った。

 だが、それがかりそめのものに過ぎないとは、誰も思いはしなかった。

おかげさまで、ついに100話に到達することができました!

これからも精進してまいります。

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