1.異世界に転移させられました
皆さんこんにちは。私、神埼時雨と申します。
今からここに記すのは、私とそのクラスメイト、合計22人が経験した物語。
ぜひ最後までお楽しみください。
中学1年生の夏、私たちは突然、未知の異世界に飛ばされたのです──。
今日も平凡な1日が始まる……。
重い頭を揺らしながら、俺は学校へと向かう。
俺は神埼時雨、自称「超ド級の平凡中学生」。
成績は普通、運動神経もそこそこ、陽キャ達とも少し付き合いがあり、オタクたちとも親交がある──。
不細工でもなく、イケメンでもない、文化祭ではおじいさん役──。
そんなことを考えていると、学校に到着した。
「よお神埼、何ぼーっとしてんだよ」
こいつは井川翔、優しい陽キャである。
俺みたいな人が陽キャに話をする時は、だいたいこいつが仲介役になってくれる。
その後ろにいるのは笹川圭介、井川の親友だ。
3人で教室に入ると、いつものような光景が広がっている。
「今日の宿題多かったくね?まじで終わらんかった」
と呟いているのは清水昭人、俺の気の置けない友人の1人だ。
「文化祭の合唱曲、練習しよ」
立川玲奈は真面目で、何事にも本気で取り組んでいる。
最近は毎日のように一人で合唱をしている。一人で。
俺のクラスは22人だから、流石にここで全員紹介することはできない。
とにかく、クラスの紹介なんてどうでもいいことが起こったのだから──。
「なんだこれ!?」
教室の真ん中あたりにいた朴葉勝と山口雄大が騒ぎ始めた。
見ると、教室の床にでっかい魔法陣が輝いているではないか。
「もしかして、異世界転移とか!?」
半ば期待の混じった声で、オタクの野口啓二と若山直人が魔法陣を眺めている。
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ、って開かねえ!?」
井川は固く閉じたドアと格闘している。
見る間に魔法陣はクラスの床全体に広がり、突然光り輝いた──。
眩しさに閉じた目を開くと、俺たちは謎の部屋にいた。
周りを見渡すと、俺たちの後ろに白髪の老人が一人いる。
「おいてめえ、何してくれてんだおい!」
クラスの不良、泊宗吾が老人につかみかかる。
「ああちょっと、やめなさいよ」
委員長の日比野美月が慌てて止める。
「すみません、急に呼び出したりして」
老人が口を開いた。老いているのに力強いその声に、泊さえ動きを止める。
「私は神、と言っても信じてくれるか分かりませんが」
なるほど、言われてみればそんな感じを受ける。
「神って、なんでこんなことをしたんだよ」
井川が口を挟む。
神は、とんでもないことを言いやがった。
「皆さんは、異世界というものに興味はありませんか?」
「「異世界!?」」
間髪入れず、野口と若山が反応する。
「ええ、剣と魔法の世界、魔王軍との戦い、そういう異世界です」
おいおい、なんかやばいことになってきたぞ。
「あなたたちは、人間の世界を救うために、その世界に行ってもらいたいのです」
「まじかよ、これって現実なのか?」
不安や絶望の混ざった声があちこちから聞こえてくる。約2名は楽しげだが──。
「でもよ、俺たちただの中学生だぜ、何ができるって言うんだよ」
山口が不満げに言う。
「もちろん、あなたたち一人一人に特別な力を与えます」
俗に言う転生特典とか言うやつか。
「おお、なんかすげえぞ」
一部の男子たちはすでに楽しげな声になってきた。
「嫌よ、帰りたい」
と言う女子たちもいる。神はというと──。
「あっおい、ちょっと待っ……」
転移の呪文を唱え終わっていた!