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剣姫と王家の秘密 2


 * * *


 第一王妃の離宮……この場所は、白い薔薇が咲き乱れ、かぐわしい香りが漂っている。


 離宮の中は白と金を基調にし、上品な印象だった。


 黒髪にナッツのような茶色い目をした女性が、第一王妃ルイーダだ。


「こんな格好でごめんなさいね」


 体調が思わしくないのだろうか。彼女は長椅子の背にもたれるように、リーゼを出迎えた。


「いいえ、こちらこそ急に訪れた非礼をお詫びいたします」


 リーゼはつい騎士のような話し方をしてしまった。そのことに気がつき、慌てて王女らしい礼をする。


「ふふ、もう聞いてますのよ」

「え?」

「ディレイに決闘で勝ったそうね」

「……えっ、あの!? なぜご存じなのですか!?」

「……」


 第一王妃は笑みを深めた。

 決闘を見ていたのは、侍女のマルセーナとディレイの従者だけだ。


 マルセーナが、誰かに話すことはない。

 だとすれば、ディレイ本人か彼の従者が話したことになるが……。


「もしかして」

「窓から見てたよー!! お姉さまは強いね!!」

「……お姉さま」


 リーゼの胸が、キュンッと音を立ててときめいた。


 人の気配はなかったが、黒っぽいものが窓の向こうにチラリと見えたかもしれない。


 犬に姿を変える黒髪に青い瞳をした第三王子。しかし、リーゼは彼のことをよく知らない。


 リーゼは、戦場に出たころから敵国であるラズフィルト王国の情報を集めていたが、資料の中に第三王子の存在はなかった。


 ――ラズフィルト王国には王子が第一王子ディレイ殿下と第二王子フィート殿下しかいなかったはず。


 過去を遡れば、第三王子の資料に行き着いたかもしれない。

 だが、社交界にデビューする前に亡くなっていれば、かつてのリーゼが知ることはない。


 ――脳裏に冷たい瞳をしていたあの時のディレイが浮かんで消える。

 何があったかを考えたとき、リーゼの背中に冷たい汗が流れた。


「お姉さま? あっ、そうだ! 自己紹介してなかった。僕はね、第三王子ロイスだよ!!」

「……っ、こちらこそ失礼いたしました。シュトライン王国第一王女リーゼと申します」

「よろしくねっ!」

「まあ……この子ったら。ご容赦くださいね」

「いいえ、とても可愛らしいですね!」


 犬に姿を変えること以外は、ロイスは愛らしい普通の少年だ。


 ――この大陸では、それぞれの国に異なった建国神話が存在する。


 共通するのは、各王家が聖獣を始祖にしているというものだ。


 ――ラズフィルト王国の始祖である聖獣は銀色の瞳を持つ黒い狼、シュトライン王国の聖獣は紫の瞳を持つ白銀の狼だ。


 王家には他にはない色を持つ子どもが生まれ、尊ばれてきた。


 しかし、あくまでそれは神話の話であり、リーゼは動物に姿を変える人の話など聞いたことがなかった。


 ――でも、第三王子ロイスは確かに黒い子犬に……否、黒い子狼に姿を変えた。


「なるほど……建国神話の話の一部は、事実なのですね」

「気にするのはその部分か」

「私は自分の目で見て、耳で聞いたことは信じることにしています」

「君らしいな」


 その言葉に、リーゼは思わずディレイに視線を向ける。

 彼は少しだけ口元を緩めていた。


「何がおかしいのですか」

「君は、弟のことを怖がったり嫌悪することはないと、何となく信じていた」

「こんなに可愛らしいのに、怖がったり嫌がったりする理由なんてありますか?」

「そうだな。俺もそう思う」


 ――そう言って笑ったディレイを見たとき、リーゼは予感した。


 この場所で、今回の人生で、リーゼが守るべき存在は、増えていくのかもしれないと。



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