剣姫の妹姫
シュトライン王国第二王女ミーシェは、ごく普通の姫だった。
光魔法の素質を持つ者は希少であることから、聖獣をあがめる中央神殿に聖女として登録されていたが、祭事のときに美しく着飾って一番上の席で微笑み、手を振るだけの簡単なお仕事しかしたことがない。
彼女の姉である第一王女リーゼ・シュトラインのように剣を手にして騎士とともに訓練をしたり、政に参加することはせず、社交界の華として、皆に愛される姫として生きてきた。
「お姉さまにこれからもお会いし、救うにはこれしかない」
中央神殿は、各国の神殿を束ねていることから国境を越えて大陸中に影響を持つ。
やり直し前のリーゼは、政を手伝っているとはいえ各国の関係に疎かった。しかし、社交界の中心であるミーシェは違う。
彼女はこの国からラズフィルト王国に嫁ぐという意味を正確に理解していた。
だからやり直し前、彼女は覚悟をしてこの国を発ったのだ。
だがラズフィルト王国に嫁いだのはリーゼだった。
彼女がなぜ、あれほど憧れた騎士にようやくなれるにもかかわらず他国に嫁ぐことを選択したのか……その理由は不明だ。
「……もし、この国とラズフィルト王国が開戦したら私たちは敵同士になる」
そのとき、リーゼが帰ってくる保証などどこにもない。
「私は、私にできることをするわ」
ミーシェは立ち上がり、二通の手紙をしたためた。
一通は中央神殿の大神官宛、もう一通は国内の神殿宛……聖女として本格的に活動したいという内容だった。
* * *
中央神殿は、ラズフィルト王国の北端にある。姫であるミーシェが、そこで修行するなど許されるはずもない。
そこでミーシェはまず、国内の神殿へと向かった。
「神殿長、お久しぶりです」
「第二王女殿下、よくいらっしゃいました」
「……あら、神官と聖女は聖獣の下では対等な存在のはず。私のことはミーシェとお呼びください」
「中央神殿とこちらに送ったという手紙の内容は、本気ということですか」
「そうですわ。私は本当の聖女になります」
神殿長が貴族を相手にするときの笑みを消した。ミーシェは聖女として登録されているが、特別な修行をしたわけではない。
あくまで光魔法を持ち、王家に生まれたからというだけの形だけの聖女だ。
「修行の間……外界との連絡は絶っていただくことになります」
「どれくらいの期間ですか?」
「人それぞれ……先代の大聖女様は三ヵ月、十年の月日を費やした聖女もいるそうです」
「……では、すぐに始めます」
光魔法を持つが、深窓の姫君が厳しい修行に耐えられるとも思えない。
神官は彼女はすぐに諦めて帰るだろうと考え、通常聖女に課せられるべき修行を彼女にも課すことにした。
「シュトライン王家に、遣いを送りましょう」
「お願いいたします」
聖獣と心通わせる聖女は大陸において重要な意味を持つ。王家であっても中断させることはできない……本人が諦めない限り。
この時点では神殿長も、彼女の家族である国王一家も、甘えん坊で世間知らずのミーシェはつらい修行に根を上げすぐに諦めるだろうという認識だった。
――遅れて連絡を受けることになる、彼女の姉リーゼを除いて。
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