結婚式と聖獣 2
「……リーゼ、ロイスを頼む」
銀色の瞳は凍てつくようだった。
しかしディレイはリーゼが動揺していることに気がついたのか、軽く目を細める。
「大丈夫だ。一人も通さない」
「えっ、怖がっているわけじゃ」
しかしディレイは、剣を構えて走り去ってしまった。
もちろんリーゼは恐れていたわけではない。ディレイがやり直し前のあの日のようになってしまったのではないか、と思っただけだ。
ディレイは強く、あっという間に貴族たちを無力化していく。
――何よ、手加減しなかったら決闘で私に負ける事なんてないじゃない。
リーゼはロイスを抱き上げると、複雑な気持ちでディレイの勇姿を見守る。
《お姉さま》
「……ロイス!?」
《誰か来るよ》
「え……?」
ロイスが金色の瞳を遠くに向けた。
何事かとリーゼも目線を向けようとしたが……。
「……っ、矢まで用意しているの!?」
危ういところで、リーゼは矢を払い落とした。しかし、次々と飛んでくる。
「……どうあっても、ロイスを」
リーゼは精神を集中すると、次々と矢を払い落とした。
戦場ではリーゼを狙った矢は、一本たりとも当たることはなかった。
『戦姫は聖獣の加護を受けている』のだと、誰もが口にしたほどだ。
ディレイがこちらを振り返り、走り寄ってきた。
「リーゼ、今行く」
ホッとしたのも束の間、火柱が上がりディレイの姿が見えなくなる。
けれどそれはほんの一瞬、ディレイは火柱を越えると、地面に転がった。
「旦那様!?」
幸いディレイの服に燃え移った火は、鎮火したようだ。
「……リーゼ、ロイス」
ロイスを抱きしめるリーゼに、マントがバサリと掛けられ、巻き付けられた。
身動きがとれなくなった瞬間、リーゼの身体はフワリと浮き上がる。
ディレイに抱き上げられたようだ。
「マントは耐火性だ。息を止めていろ」
「旦那様っ! 私は大丈夫ですから」
先ほど目にした火柱は、ますます勢いを増していた。
リーゼを抱き上げたまま抜ければ、ディレイは無事では済まないだろう。
「大事な人たちが傷つく姿など、見たくない」
「……それは、私だって!」
「決闘には負けたが、こんな場面くらい格好つけさせてくれ」
ディレイが、マントで涙でグチャグチャになったリーゼの顔を覆い隠そうとした瞬間、ポツリと雨がその頬を濡らした。