剣姫と王家の秘密 3
リーゼは幼い頃から、シュトライン王国、そして家族を騎士として守ると決めていた。
シュトライン王国内は、王子はリーゼの兄しかおらず、国王夫妻はお互いを愛していて、王位争いとは無縁だった。
――でも、この国は違う。
離宮で育った第三王子ロイスは、王族にしては疑うことを知らず、やんちゃで無垢で可愛い。だが、聖獣と同じ姿になる彼は良い意味でも悪い意味でも特別な存在だ。
やり直し前、リーゼが得た情報では第一王子ディレイが王位を継ぐことが、ほぼ確定されていた。だが、今のディレイは王位に興味があるようには見えない。
「……」
「すきありー!!」
考え事をしたほんの一瞬に、ロイスが勢いよく駆け寄ってきて、リーゼに飛びついた。
余裕で支えられると思ったが、リーゼとロイスは床に倒れ込んでしまった。
リーゼはまだ、鍛え抜かれた以前の身体のイメージが強くて、今の身体を扱いきれずにいる。
「すまないな」
ディレイがロイスを片腕で抱き上げ、申し訳なさそうに手を差し伸べてきた。
その手を掴むと思ったより力強く引き寄せられる。
――ディレイは現時点でもかなり力があるようだ。
リーゼとディレイ、二人の距離は近い。
まるで抱きあっているようだ。
「……っ!!」
「すまないっ……!!」
二人はこれでもかというほど距離を取った。なぜか顔が熱くてしかたない。
「ごめんなさい」
ディレイに抱き上げられながら、ロイスはすっかりシュンッとしている。
リーゼは笑みを浮かべて、ゆっくり歩み寄った。
「ふふ、驚いたけれど……また遊びましょうね?」
「うん!!」
「そろそろ、政務に戻らねば」
「……私も」
「君はもう少しここにいると良い。俺たちに与えられた部屋に一人でいるより安全だろう」
「私は、自分の身は自分で守れます」
「――そうかもしれない。だが、攻撃は物理的なものだけとは限らない。この場所には警備の人員を割いている」
「……」
「リーゼ様、ぜひこちらでお過ごしになって」
ディレイの言うとおりなのだろう。この場所には容易に人は入り込めない。
「ディレイ様!」
その時、ディレイの従者がやってきた。
恐らく、ディレイを呼びに来たのだろう。
焦げ茶色の髪に緑の瞳をした従者は、リーゼに敵意を含んだ視線を向けた。
それは微かな敵意だったから、リーゼしか気がつかなかっただろう。
「ディレイ様、会議の時間に間に合いません」
「そうだな……リーゼ、待っていてくれ」
「ええ、お待ちしております。旦那様」
――この場所でするべき事があるのでは。
リーゼは思う。このあと恐らく、ロイスは何らかの事件に巻き込まれる。
第一王妃ルイーダに関しては、病で亡くなるのかもしれないが……それも確実ではない。
――そうでなければ、説明がつかない。
リーゼとディレイはまだ結婚式を挙げていない。リーゼがラズフィルト王国に来てからまだ数日。ディレイは違う場所で寝ているのか夜は帰ってこない。
――それなら、夜もルイーダの離宮で過ごすほうがいいだろう。ルイーダとロイスを守るためにも。
リーゼはそう考えるのだった。