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剣姫の嫁入り 1

つよつよヒロインとお料理上手五年後に最強になるかもしれないヘタレヒーローのラブコメです。あと姉妹愛。のんびり気楽にご覧ください。


 シュトライン王国第一王女リーゼは、幼い頃から騎士になると決めていた。

 初めて戦場に立ったのは騎士団に入団した直後、十九歳。

 騎士団に入団して五年、二十四歳になったリーゼは『剣姫』と呼ばれるようになっていた。


「……強い」


 この戦は、間もなくラズフィルト王国の勝利で幕を閉じるだろう。


「我が名は剣姫リーゼ! ラズフィルト王国第一王子ディレイに一騎打ちを申し込む!」

「……やめたほうが良いと思うが」

「断る気なの? あなたに矜持はないの」

「そんなもの……とうの昔に捨てた」


 人生最後に花を飾るべくラズフィルト王国第一王子ディレイに一騎打ちを挑んだリーゼ。

 ディレイの口元がほんの一瞬歪んだ。

 だが、次の瞬間には彼の表情は何の感情も宿していなかったからリーゼの見間違いだったのかもしれない。


「いざ尋常に勝負!」

「……俺が勝ったら、ラズフィルト王国に来てもらう」

「私に勝ってから言いなさい」


 だが向かい合った瞬間、彼が噂以上に強よいとリーゼは理解した。

 勝てない、と思ったのは初めてだった。


 たった一合の打ち合いで勝敗は決する。

 愛剣は宙を舞い、リーゼは地面に膝をついていた。


「私の負けね」


 顔を上げて、相手の顔を見る。

 無敗だった『剣姫』に膝をつかせたディレイは黒髪に凍り付いた月のような銀の瞳をしていた。


 何の感情も宿すことのない瞳、鍛え抜かれた体躯、神業のような剣技。彼はリーゼの妹ミーシェの仇だ……間接的にではあるが。


 少なくともリーゼは今日この日まで彼を仇と思って生きてきた。しかし、リーゼの胸中に広がったのは、仇と思い続けていた相手に負けた悔しさより、その強さへの憧憬だった。


「……ミーシェ」


 思い浮かぶのは目の前の男ディレイに嫁ぐ途中、馬車が崖から転落し命を落とした妹、ミーシェの笑顔。


 その直後、何者かに背中から刺し貫かれ……リーゼは絶命した。


 * * *


 目が覚めると、リーゼは自室のベッドの上にいた。


「……夢だったの?」


 そんなはずがない、確かに先ほどまでリーゼは戦場にいた。


 思わず胸元をまさぐるが、傷はない。

 だが、直前まで戦場にいたのだ。死を直前にした夢という可能性もある。


 リーゼは立ち上がると、ベルを鳴らした。

 すると、侍女が現れた。


「マルセーナ」

「おはようございます、姫様」


 リーゼの声は、震えていた。

 それもそのはず、淡いグリーンの髪と瞳をした彼女は、もうこの世にはいないのだ。


 騎士として生きると決めたリーゼに付き従った侍女マルセーナは、本来は王家の影だ。

 彼女の腕は確かだったが、戦場でリーゼを庇い命を落とした。


「マルセーナ!」

「まあ、そんな大きな声を出して、姫様はいつまでも子どものようですね。騎士団で生きていけるのでしょうか」

「……騎士団?」

「あらあら、寝ぼけていらっしゃるのですか? 陛下に決闘で勝利し、ようやく騎士になるお許しを得たのに。入団したら、朝早くから訓練があるのですよ?」

「知っているわ……でも、それよりも

……」


 リーゼは、渇ききった喉をゴクリと鳴らした。次の言葉を口にするには、勇気が必要だ。


「……ミーシェは」

「第二王女殿下はもうとっくに準備を終えられて席についておられますよ」


 その言葉に、リーゼは部屋から飛び出した。

 ネグリジェ姿で廊下を走る。

 何事かという周囲の視線を気にもせず、リーゼは食堂に駆け込んだ。


「お姉さま……!?」

「……」


 リーゼが涙ぐんだことにミーシェは驚き、目を見開いた。


「ミーシェ!!」

「本当にどうなさったの? お姉さま」


 リーゼの妹であるミーシェも、すでにこの世にはいない。

 彼女はラズフィルト王国第一王子ディレイに嫁ぐ馬車が崖下に転落し死んだはずだ。


 リーゼはミーシェを見つめた。

 白銀の髪に淡い紫色の瞳。

 二人の色はお揃いだ。


 肩で切りそろえられたフワフワの髪に大きな瞳の可愛いミーシェ。

 ストレートヘアに鋭い目をした凜々しいリーゼ。


 ミーシェは光魔法を扱い聖女と呼ばれていたが、リーゼは剣を振るい後に剣姫と呼ばれることになる。


 ――二人はまったく似ていない。それでもとても仲が良い姉妹だった。


 リーゼはミーシェに抱きつく。

 ミーシェの温かさがこれが現実だと告げている。


「今日は何年、何月何日?」

「本当にどうしたの、お姉さま」

「教えて」

「精霊歴三六二年五月一日よ」

「……あの日」


 朝食の間、リーゼはずっと考え事をしていた。間違いなくリーゼは、やり直している。


 そして今日は、ラズフィルト王国第一王子ディレイが結婚を申し込んでくる日だ――()()()()()に。


最後までお付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

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