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お姫様は愛する王子様を幸せにする  作者: 木蓮
<表>銀色のお姫様は愛する王子様を幸せにする
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サラフィーア 5

 疲れ果てていたある日、叔母様が私をお茶会に呼ばれました。

 陛下の身を狙う強大な呪いに成り果てたサクヤ様の排除は、彼の婚約者であり神具を扱う素質がある私の義務です。

 国を背負う王妃であり数少ない事情を知る叔母様は、呪いの主に心で負けている私を情けないと叱るのだろうと。憂鬱な気分で重い身体を引きずって出席すると、意外にも叔母様は人払いをして私を「良くがんばっているわ」と慰めてくれ、心の内を明かすように言ってくれました。


 限界だった私が幼い頃のように涙ながらに「トーラに会いたい」と言うと「私も同じだったわ」と静かに微笑み、叔母様の辛い過去を話してくれました。そして話し終わると私にこう諭しました。


「陛下があの女の元へ行ってしまうたびに、私は陛下の愛を失ってしまったのかと思って毎日苦しんで、いっそあの女をこの手でくびり殺してしまおうかと思ったわ。

 でも、違ったの。陛下はただあの女が見せる悪夢に捕らわれていただけ。私と育んだ愛を覚えていて、私の呼び声に応えて帰って来たわ。

 ……サラ、あの魔女はただ人の優しさに付けこんで支配することを”愛”と言い張っているだけ。トラオムはあなたを信じて戻ろうとしているわ。あの子が無事に帰ってこられるように名を呼んで、今も呪いと戦うトラオムを助けなさい。あなたならできるわ」

「……はい! 叔母様、ありがとうございます、必ずトーラを助けて戻ってきます」


 叔母様の言葉に勇気づけられた私は、希望を胸にトラオムの元へ向かって”トーラ”に呼びかけました。

 彼は最初は私を激しく拒絶していましたが、私がそれでも強く呼びかけると微かな声で「サフィ」と私を呼んでくれました。

 そして、心がいっぱいになって涙が止まらない私に口では雷雨のような憎しみをぶつけながらも、私が大好きな暖炉の炎のような暖かな色の瞳に私が泣き止むまで映しつづけてくれました。


 ……叔母様と”トーラ”の2人から勇気をもらった私はその日から泣くのをやめて、呪われたトラオムに毅然と立ち向かうようになりました。すると、不思議なことにサクヤ様は私を恐れるようになりました。もしかしたら女神様のご加護があったのかもしれません。


 そして、女神様のお導きか辺境に“ニホンジン”のサクラ様が現れました。

 王妃様は呪いと化したサクヤ様を確実に排除するために、相性の良い彼女に呪いを封じる”器”になってもらうことを決めました。


 サクヤ様は陛下の心の癒しになった”ニホンジン”であることを誇っています。

 トラオムにとりついたサクヤ様は”ニホンジン”のサクラ様に興味を持つようになり。やがてサクラ様がトラオムに恋をすると私を嘲笑うように彼女にとりつくようになりました。


 ――そして、隙をついて私が振るった神具の力でトラオムから追い出されて焦ったサクヤ様はサクラ様にとりつき。封印された2人は”二ホン”に帰されたそうです。


 ……私に見せつけるようにトラオムに媚びてすり寄っていたサクラ様は大嫌いですし、トラオムを苦しめていたサクヤ様がこの世界から完全にいなくなって喜んでいますが。

 サクヤ様にとりつかれたサクラ様が狂気と憎悪に歪んだ顔でトラオムを「トール」「トラオム」と呼んで追いすがり、転移する私とトラオムを呪う絶叫と殺意に満ちた顔は、今でも思い出すと恐怖を感じます。


 サクラ様は辺境や我が家で数多の男性たちにすり寄って弄んだ愛情深い方でしたが。

 トラオムへの愛は本物で、だからこそその溢れんばかりの愛情を注ぎ込んでその心を1人占めしようとし、私に敵意を向けていました。


 でも、それは私も同じ。本心ではないとはいえトラオムがサクラ様に優しく接する姿を見るたびに、彼女に殺意を感じました。

 だから、不安を感じます。いつかまた”トーラ”に恋する女性が現れて万が一”トーラ”がわずかでも心を傾けたら。私は彼女たちのようにこの愛情を醜い嫉妬に変えて”トーラ”を無理やり閉じ込めてしまうのではないかと。

 優しい叔母様に甘えて相談すると、珍しく声を出して笑われました。


「ふふふ、サラは本当にトラオムのことになると心配性ね。そうね、トラオムにお願いしてみたらどう? 『私と一緒にいて』と。トラオムは誠実な子だからきっとサラのお願いを叶えてくれるわ」

「でも、それではトーラを私に縛ってしまうみたいで……」

「ふふっ、大丈夫よ。あの子はね、あなたとの婚約が決まった時に『女神様の祝福に感謝し、“伴侶”として生涯サラフィーアを大切にします』と私に誓ったの。だから、大丈夫よ」

「トーラがですか……?」


 トラオムの宣誓に私は心が日向に当たった時のようにぽかぽかと温かくなりました。すると、それを見計らったように離宮に行っていたトラオムが私を迎えに来てくれました。

 叔母様に目で促されて私はトラオムのところへ急いで歩きました。トラオムは幼い頃のようにドレスを翻して全速力で歩く私を見ると、騎士様のように颯爽と駆け寄って来て私を抱き留めてくれました。


「サフィ、そんなに早く歩くと危ないよ」

「うん、心配してくれてありがとう。あのね、トーラに伝えたいことがあるの」


 私はトラオムに叔母様に言われた言葉を告げて愛をささやきました。彼は顔を真っ赤にしながらも同じ気持ちを返してくれました。

 それに安心した私はもし嫉妬がこみ上げてきてもこの言葉を思い出してトラオムを信じる(愛する)と女神様に誓いました。

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