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お姫様は愛する王子様を幸せにする  作者: 木蓮
<表>銀色のお姫様は愛する王子様を幸せにする
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サラフィーア 3

 毎日のように訪れていた王宮に来るのもずいぶんと久しぶりです。

 案内のメイドに付いて庭に入ると既に王妃様が待っていました。私が挨拶をするといつもは美しくも硬い表情の王妃様はかすかに微笑まれました。


「久しぶりね、サラフィーア。その後はどう?」

「はい、お気遣いありがとうございます。おかげさまで2人とも穏やかに過ごしています」

「そう、良かったわ。城は今、あなたたちの話で持ちきりなのよ。命をかけて呪いを引き受けた勇敢な王子様を真実の愛情で救った美しく優しいお姫様、とね。私もあなたたち2人がまた寄り添う姿を見られてうれしいわ」

「はい。私たちの将来のために一連の顛末の声明を出していただいた、陛下と王妃様の配慮に厚く感謝申し上げます。

 ……ですが、その。1つだけ申し上げさせていただきたいのですが。私はただ女神様の御力の宿った神具をお借りしてただトラオム殿下の身体から呪いを追い出しただけです。

 真にトラオム殿下とこの国を救ったのは、王国に災いをもたらす呪いをこの世界から完全に消滅させたアルセイン殿下です。私などが評価されるなど恐れ多いことです」


 王妃様の声は心からの賞賛がこもった温かいものですが、いたたまれなくなった私はやんわりと訂正しました。

 1月前。トラオムにとりついていた呪いは隙を見せたところを私が神具の御力で引き剥がしました。

 そして、もう1つの神具を振るったアルセインが呪いを弱らせて相性の良い器に封じこめ、女神様のお役目を果たしたサクラ様とともに”二ホン”へ連れ帰ってもらったそうです。


 ……後半が伝聞なのは。荒ぶる呪いを引き剥がしたところで情けなくも私は力尽きてしまい、あの悪夢のような状況の中で幼い頃にトラオムと一緒になって悪戯をしでかした時のように明るく笑ったアルセインの転移魔術で一足早く避難させてもらったからです。

 ですので、真の功労者はアルセインです。もっともあのマイペースないとこは「愛するツバキと過ごす時間が減る」と嫌がって体よく私に押しつけたのかもしれませんが。


 その後、国王陛下と王妃様は社交界に向けて一連の顛末を


 ――第3王子トラオムは一早く陛下を狙った呪いに気づきその身を使って呪いを閉じ込めた。そして、婚約者のサラフィーア・スペクルム侯爵令嬢が女神様のお力を借りて神具を振るい、2人の絆が強大な呪いに打ち勝った。

 女神様に愛された勇敢な2人に心から感謝し、敬意を表する。


 と、発表しました。

 その話は今や尾ひれ背びれ胸びれとあらゆる飾りを付け足した美談として国中に広まり、最近ではトラオムと私は”女神様の愛し子とその伴侶の再来”だなどといわれて、熱狂的な注目を浴びています。

 

 あれから1月。1年間がんばったご褒美として、後始末を王妃様たちに任せてトラオムと2人侯爵家でのんびりと過ごしていた私としては、久しぶりに少し王宮を歩いただけあまりの熱気にあてられていたたまれなくなりました。

 王妃様はあまりにも美化されたイメージに戸惑う私を気遣ってくださったのか。淑女の仮面を外して幼い頃からかわいがってくれている叔母様としての笑みを浮かべられました。


「ふふふ、サラは謙虚ね。でも、あなたとアルセインががんばったおかげであの女のおぞましい呪いから完全に陛下もトラオムも救われたのよ。堂々と胸を張りなさい」


 叔母様が私を見る目はいつものように優しいものですが。”呪いの主”を語る声は冷え切っています。

 長年国へ災いをもたらし叔母様の心を蝕む元凶をやっと排除できたのですから当たり前ですが。その冷たさにあのおぞましい呪いの主と対峙した時の恐怖を思い出して、私は無意識に体が震えました。


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