トラオム 4
スペクルム侯爵家で再び意識を取り戻した時にはすべては終わっていた。
呪いから解放されて無事に目を覚ました僕を驚くほどたくさんの人々が喜んでくれて。僕はこんなにもたくさんの優しい人たちに助けられたことと再び生きられることを心から感謝した。
しかし、巷では「僕とサラフィーアの愛の絆が呪いに勝った」ととんでもない噂になっているとかで。
騒ぎを嫌がった僕とサラフィーアは療養という名目で後始末を王宮の人々に任せて、スペクルム侯爵家でサラフィーアとゆっくり過ごさせてもらうことになった。
サラフィーアことサフィにはこの1年間僕のせいでずいぶんと苦労をさせてしまったし、王宮では人目があってゆっくり過ごせないから。2人で過ごせるのはうれしいのだけれど……。
「今日はトーラが好きなリンゴを使ってパイを焼いたわ! はい、召し上がれ!」
「ありがとう……」
1口に切ったアップルパイを口に運んでくれるサラフィーアに僕は素直に口を開けつつ困ってしまった。
ここのところサラフィーアはなぜかお菓子作りに目覚めて僕の好物をせっせと作って食べさせてくれる。うれしいしおいしいし得意げなサラフィーアはそれはもうかわいいのだけれど。太りそうなのがちょっとだけ心配だ。
今日もおいしく食べ終わるとそれを見計らったようにアルセインがやって来た。
「やあ、トラオム。幸せそうな顔をしているね。さてはサラと一足早い新婚生活を楽しんでいるのかな?」
「うん、好きなスイーツを作ってもらっているんだ、どれもおいしいよ。サフィが作ってくれるなら尚更だ」
「あはは、やっぱり君たちはそうじゃないとな。……さて、幸せ生活を満喫しているところに業務連絡だ。あの一件で離宮を取り壊すことが決まったよ」
「……そうか。僕としてはあそこがなくなって良かったよ。母も自分を閉じ込めていた忌々しい監獄がなくなってせいせいしただろうな」
あの離宮はかつては美しい場所だったらしいが、今は母と陛下に振りまわされた人々の悲しみと怒りを思い出させる陰惨な場所に変わり果ててしまった。僕としても無くなってすっきりする。
「そうか。実は取り壊す前にあそこで陛下がトラオムに会いたがっているらしいんだ。悪いけどちょっと会ってやってくれないかな? 何だったら死なない程度に殴っていいよ? 兄上も侯爵も喜んで隠ぺいに協力してくれるだろうし」
「……そうだな。考えておくよ」
軽やかに笑いながらも本気ですすめるアルセインに僕は苦笑いすると久しぶりにサラフィーアと登城した。彼女が王妃様のところへ挨拶に行っている間に離宮へ向かった。




