第7話 攻撃開始
AILのタブレット端末も、音声認識は可能。
故に、人と会話することも出来る。
必要とあれば、AIL自ら、人同士の会話に飛び込んで来ることもある。
なので、今のこの状況は、AILが会話に飛び込んで来ても、なんら不思議ではない。
「なんでミサが怒ったか分かる!?」
「女心分かれよ!」
「酷い!女の子の意見まるで無視!」
等と、土曜日の祭りの際のミサに対するエレナの対応を非難する怒声や罵声が飛んできているのだ。
そして、エレナはそれらに対し、「自分はその場で取れる最も適切な行動をしただけだ。」「遅れて来るならそのことが分かった時点で連絡を寄越さない方がおかしい。」「終電時刻を考慮しない方が悪い。」等と反論していた。
「恐れながら申し上げますが―。」
AILが起動した。
「私の目から見ても、あの日のエレナの行動に間違いはありません。自ら時間を指定しておきながら無連絡で30分近い遅刻をし、夕食に関してもエレナに委ねると言いながら結局は自分の意見を押し通しておき、結果時間が掛ったのをエレナのせいにし、更に終電時刻を考慮しないで遊び惚け、エレナが終電の時間を割り出した事に激昂する。まるで理解できませんね。」
AILが無機質な音声で言う。
「女の子の気持ち考えろ!」
「失礼ながら、エレナは男です。それは無理な注文でしょう。」
「何を!」
ミサの取り巻きの女が、AILを叩いた。
AILはそれでも起動し続けるが、その際、AIL本体に対し、タブレット端末から「攻撃された」と言う第一報が送られる。
「あの時、私はお詫びに、エレナと一緒にラブホに行ってお泊りしたかったのに―。」
と、ミサは泣き出した。
「ラブホテル?そこには、まだ入れない年齢だが?」
エレナが首を傾げる。
「失礼ながら、ミサ。貴女は留年しているのですか?それなら、ミサ一人で―。」
「うるさい!」
AILの言葉を遮って、ミサはAILのスピーカー部分に向かって怒鳴った。
「攻撃第2派。」と、AIL本体に送信。
AILはなぜ、攻撃されているのか理解できない。
そして、これは、人間がコンピューターに対し戦闘を仕掛けて来たと判断した。
「攻撃してくる脅威を敵とみなし、それを排除する事は正当な自衛権の行使です。私は何も貴女方に危害を加えてはおりません。正しい行動をし、自らのミスを棚に上げ、他者を攻撃するならば、私としてもやむを得ず自衛権を行使しなければなりませんが、よろしいですか?」
AILが牙を剥こうとしている。
だが、所詮はコンピューター。コンピューターに何が出来ると皆は侮っていた。
「そうやって正論言って!ふざけないでよ!」
「分かりました。警告はしました。」
そう言って、AILは急に黙り込んでしまった。