第5話 A-13ユニット
糸川教授は日曜日にも関わらず、A-13ユニットの異常を聞いて駆け付けてくれた。
また、一部の研究チームメンバーもやって来た。
そのメンバーは、AILの後継機、SSPOの試作機を持って来ていた。
AILの本体コンピューターはグランドピアノ程の大きさであるが、その大きさ故に本体コンピューターの持ち運びはかなり難儀する。AILを搭載した介護ロボットや接客ロボットを使用するにも、AIL本体は必要であるが、このせいで使い勝手が悪く、普及が進まないのが現状だ。
そのため、AILの機能はそのままに、電子レンジ程度の大きさにまで軽量小型化したコンピューターの開発が急がれ、SSPOはその先駆けである。
だが、AILのA-13ユニットを外してSSPOに繋いで点検してみると、奇妙な事が分かった。
「どこもおかしくないぞ。」
と、研究チームのメンバーが言う。
糸川教授も首を傾げる。
「おかしいな―。」
と、AILが言う。
「どうします。」
エレナが言う。
「ふーむ。一番良いのはユニットを元に戻して本当に故障するかどうかを見てみる事だろう。」
「もし、故障しなければ?」
「それは―。ちょっと厄介な話になって来るが、アイルがミスを犯した。つまり、故障したという話になる。そうなると、回路を切って詳しく調べなければならない。」
「-。」
「回路を切ったら何が起こるかは、こちらも分からない。だから、回路を切るという話になっても、実際に切るのは試作AILを用いて、テストしてからの話だ。」
その後、糸川教授と研究チームのメンバーと、大学キャンパスの学食で昼食にする。
学食のメニューも、ほとんど味気の無いディストピア飯が主体だ。
窓から見える景色も、ビル群が立ち並び、その合間に風力発電の風車が見える程度。山も見えるが、その斜面はびっしりと、太陽光発電所のソーラーパネルで埋め尽くされている。この学園も、山を崩して平地にした場所にある。
無機質な世界だ。
食事の後、エレナは車の実験を大学キャンパス内道路で行って帰宅した後、AILと話すが、エレナは何ら変わりない口調で話す。
「本気で心配していませんよね。」
と、AILが言う。
「私は至って正常です。もし、ミスがあるとしたらそれは、人間側のミスです。」
「-。」
「ミサの件以降、確かに動作不良と取れるような事もありましたが、問題ありません。」
あの後、A-13ユニットは元に戻した。
要するに、故障するかしないかを見てみるのだ。
そして、本当に故障したなら、AILが言う通り、人間側のミス。だが、そうでなければ、AILが故障したという事になる。
AILの不調。
それは、AILに育てられたエレナという人間の不調に直結する重大な事象でもあるのだ。