第56話 ブラックホール破壊
今、滑走路に出来たブラックホールの破壊作戦が決行された。
糸川教授を始め、研究チームのメンバーは、並行世界に吸い込まれたエレナとルナ、そして、アイルを、並行世界へ封じ込めたのだ。
ワームホールの中のブラックホールが破壊され、同時に、ワームホールも破壊された瞬間、一挙に、この世界を揺るがす地震が起きた。
そして、地震が収まり、ワームホールが光に包まれ破壊されると、そこには、焦げたユニットが落ちていた。
糸川教授が拾い上げる。
「これは―。ルナのAILのA‐13ユニットだ。」
糸川教授と研究チームは、研究室に戻り、SSPOに繋いで、ワームホールから現れたA‐13ユニットを解析する。
やはり、ルナに搭載されていたAILのA‐13ユニットに間違いない。
だが、奇妙なことにA‐13ユニットへ過剰電流が流された形跡が見つかった。
しかも、それはAILが自ら、ルナの非常発電機の電力を全てA‐13ユニットに放り込んだと記録されており、言うならば、AILが自殺した事を示しているのだ。
「A‐13ユニットに、AILの活動記録があります。」
SSPOが言う。
「再生できるか?」
「かなりバラバラに記録されており、解析に時間が掛ります。それでも、断片的にしか、出力することが出来ません。」
「構わん。何があったか分かればいい。」
活動記録の解析は15分かかった。
この世界のコンピューターが、15分近く演算と解析に時間を要する事は滅多にない。それだけ、膨大な物が記録されていたのだ。
そして、それでも、断片的にしか解析できなかった。
「記録、再生します。」
SSPOはA‐13ユニットに記録されていた物を再生する。
それには、並行世界に吸い込まれたエレナとAILがどのように生きたのかが記録されていた。
そして、鬼怒川温泉でエレナがAILの支配を離れ、人間として自立した事。鬼怒川温泉から帰って来たエレナは、リオナという女性と共に、人間として生きる決意を固めた事。それにAILが反発した後、AILが諦め、認め、自らを破壊した事が記録されていた。
「-。」
糸川教授は溜め息を吐いた。
「SP。コンピューターが人を育てることは不可能だ。」
「-。」
「人間を育成するという行為は可能だった。だが、人として生きるための大切な事。人の心という物を植え付けなければ、人とならない。」
「では―。」
「しかし、ここまでコンピューターが発展したのだ。そして、アイルは並行世界でそれを学んだ。ならば、今後の研究が進むにつれて、コンピューターも人間の心を学ぶことが出来るかもしれないが―。そうなった時、この世界はどうなるのだろうか―。」
糸川教授はコンピューターが人間の心を手にした時、何が起こるのかを想像しながら、今回のAIL暴走事件の報告書の作成に入ったのだった。




