第54話 帰り道
バスで東照宮にお参りし、昼食は東照宮の中にある、かつての貿易商人の別荘だった「乱れ石積み」の技法で作られた洋館を改装した西洋料理店に入る。
ビーフハンバーグステーキに、スープ、サラダ、パン(エレナはライス)、チーズケーキ、紅茶という内容のセットで、リオナはグラス林檎酒を追加で頼む。
「二人の婚約を祝って」と、乾杯しようというのだが、エレナは酒が飲めず、かといって、ソフトドリンクも頼まなかったから、仕方なしに水で付き合う。
昼食の後は、路面電車で駅に向かい、私鉄の急行「けごん」のドリームカーに乗って、栃木に帰る。
その車中で、リオナはエレナの肩に寄りかかって眠ってしまった。
それでさえも、不快に思わない。
リオナと一緒に居れば居る程に、エレナは人間の心と言う物を理解し、人間の感情と温もりを身体に取り入れられるのを実感した。
それは、コンピューターであるAILからも、元居た世界の人間からも得られなかった物だ。
(糸川教授。コンピューターで人を育てる事。それは可能ですが、人間の心と言う物は、人間からでなければ、得られない物です。栃木に戻ったら、アイルを再起動して、アイルに話を付けます。)
と、元居た世界の糸川教授を思う。
まもなく新栃木に着くというので、リオナを起こす。
耳元を軽く撫でてやると、リオナは「あっ」と目を覚ました。
「よく眠ってました。まもなく、新栃木に着きます。」
「あっあぁ。ありがとう。すっかり寝てしまいましたが、良い夢を見ました。エレナと私の間に、子供が生まれる夢です。」
「つまり、自分とリオナさんが夫婦となり、子供を育てるに至るという予知夢とも解釈できます。」
「そんな、明るくて、幸せな家庭を築きたいです。帰りましたら、白百合家の一族に報告しましょう。」
「リオナさんの両親は?」
「私は、天涯孤独な科学者崩れの女です。両親は、既に他界しました。あぁ、お墓は、岩船山のお寺にあります。近いうちに、両親のお墓にも行きましょう。」
ちょうどそういった時、列車は新栃木駅に着いた。
駅で列車を降り、まっすぐそのまま、白百合家の庄屋に直帰すると、白百合家の大黒柱である白百合京太郎と、ホコネ・ウララ姉妹にリオナとエレナは婚約し、夫婦となると報告する。
「わぁっ!」
と、ホコネは飛び上がり、ウララも「おめでとう!」と拍手を送る。
そうした一連の事を済ませた後、リオナとエレナは、駐車場の「ルナ」の車内にあるAILを再起動させる作業に入った。
のろ気てばかりだったエレナとリオナだが、電子工学が生み出した電算機や、それに近い存在であるAILを扱うときは、真剣な眼差しになる。
「端末接続します。」
と、リオナ。
「接続確認しました。ルナのエンジンを起動。蓄電池残量確認。接続、AIL再起動。」
シャットダウンしたAIL10000型コンピューターが再起動する。
「おはようございます。」
と、AILが言う。
「お二人とも、何かあったのですか?顔つきが何か違います。」
「あっああ。アイル。実は、リオナさんと結婚することになった。」
「-。意味が分かりません。」
「婚約したんだ。旅行の間に。」
「-。私の反対を押し切ったのですか?」
「人間同士で話し合っての結論だよ。でもアイル。今後もアイルには活躍してもらいたい。具体的には、今までの天文観測のデータ解析や、庄屋の仕事の手伝いを―。」
「残念ながらそれは出来ない。元居た世界に戻りましょう。」
「えっ―」
突如、アイルはルナを発進させた。
目的地は、大平山天文台だ。




