第52話 鬼怒川の夜
大浴場から部屋に戻る際、エレナとリオナは浴衣を着ていた。
エレナは初めて着る浴衣に戸惑ったが、実際に浴衣を着てリオナと並んで歩くと、様になっているように感じた。
「准尉クラスという、下位クラスの中で一番上のクラスの、この部屋から上のクラスは、部屋食か広間での夕食かを選択出来、下位クラスは広間になります。」
と、リオナは夕食の話をする。
大浴場から部屋までの間に、小さいながら娯楽場もあり、少々遊んでいこうと言うので、エレナはリオナに付き合い、撞球場に入って1回ゲームをする。リオナとゲームをして勝てた事が無かったが、今回はかなり白熱し、最終的にエレナが勝った。
ミサの時、エレナが機械的に勝つと、ミサは不平不満と罵詈雑言を浴びせて来たが、リオナは「悔しいです!今度は負けません!」と頬を膨らましただけだった。
エレナもミサと違って、機械的に勝ったのではなく、リオナとの大接戦になった上で勝ったため、かなり充実感と言う物を得ていたし、何より笑いが絶えなかった。
部屋で、夕食を堪能した時も、エレナとリオナは絶えず笑い合い、エレナはその際、前の世界で付き合っていた「ミサ」と言う女の話をしたが、リオナは嫌な顔せず聞いてくれた。
「随分と勝手な人ですね」と、ミサを批判したが、その時も笑っていた。
食事を終えて、食器を下げて貰うとき、ちょうど部屋の半露天風呂に温泉を引き込んで入り頃になった。
入る前に、布団を二人で敷くが、この時もリオナとエレナで自分たちの布団を敷いていた。
「では―。」
と、リオナはスルスルと浴衣を脱いでしまう。エレナは直視出来ないでいたため、冷蔵庫から、リオナの買った物と、自分が買った物を引っ張り出しに向かう。
「ああ、ありがとう。では、エレナも―。」
と、リオナはエレナの浴衣に手を伸ばす。
「ちょっ―。」
「ああ、ダメですよ。私だけが一人お風呂でお酒では、エレナも一緒に入ってくださいな。」
「でも―。」
「前にお風呂に入り込んで来て今更恥ずかしいのですか?」
リオナがニヤリと笑った。
結局、リオナに押し切られて、エレナも一緒に入るハメになった。
「さぁて。」
と、リオナは桶に入れて浮かべたワンカップ酒を、冷や奴を肴に嗜んでいる。
その横で、エレナはスナック菓子とオレンジジュース。
これでは、年の離れた姉弟だ。
「あぁ、この時間が溜まりません。」
リオナは夢見心地だ。
「あの―。」
と、エレナは口を開く。
「なんれしょう?」
「呂律回らなくなる前に言わせてください。自分は、リオナさんが好きです。」
「あらぁ?」
「なので、元居た世界に戻りたくないです。リオナさんと一緒に、星空を眺めながら、この世界で生きていきたいのです。自分自身の勝手な事ですが―。」
「フフフフッ」
リオナは微笑む。
「私も、エレナが元居た世界に戻る事は嫌れすねぇ。私も、同じ事を思いまふ。」
「でっでは―。」
「ただし、条件があります。」
「条件?」
酔いが回りつつあったように見えたリオナだが、突如として、普段の凛とした真面目な科学者の顔になった。
「私の印を奪ってください。」
「はっ?」
意味が分からないエレナだが、リオナは唇を指差した。
「それは―。」
「接吻です。言わなければ分かりませんか?」
「その―。」
エレナは後退りしようとして、自分の身体が半露天風呂の湯船の淵に衝突した。
「或いは、私からしましょうか?その後で、貴方もしてください。そうしなければ、私は信用出来ません。」
「-。」
「エレナ。私はふざけてこんな事を言っているのではありません。貴方を愛しているから言っているのです。でなければ、一緒にこうしてお風呂に入る事もしません。」
「-。」
一瞬、AILの紅いカメラ・アイが脳裏を過った。
AILならば、全力で止めに来るだろう。
だが。
「自分は人間です。人間だからこそ、リオナさんが好きなのです。」
と、言いながら、リオナと唇を合わせた。
離れると、リオナの方からも合わせて来た。
そして、離すと後味を確かめるような仕草をする。
「貴方は人間ですね。」
と、リオナは微笑むと、エレナに自分の身体を絡めるのだった。




