第49話 リオナの糾弾
急行「大樹」は、栃木を出たら、新鹿沼、下今市、そして、下今市から鬼怒川温泉までの各駅に停車し、終点の鬼怒川温泉に着いた。
駅から歩いて20分程の所にある大戸旅館にチェックインする。
「貴賓・展望車に乗れなかったので、その分、宿の部屋を良いものにしました。」
と、リオナは言うが、下位クラスの部屋の中で一番良い部屋という事だった。
リオナは宿帳に軽井沢リオナと書いた後、軽井沢エレナと書いたので、「あら、新婚さんですか?」と、受付のおばちゃんに言われ、エレナは目を逸らすが、リオナは赤面を浮かべながら「そうなのですよぉ」と微笑み返した。
(なんでこの人は、こうも平然と恥ずかしい事言えるのだ?)
と、エレナは思う。
「夕食は部屋食になさいますか?」
「では、部屋食でお願いします。良いですね。」
と、エレナは言われて頷いた。
10階建の宿の6階の部屋に通される。
8畳間と4畳間に縁側と半露天風呂が付いた部屋は、まともな旅行をしたことのないエレナの目には豪華な部屋に見えるのだが、上位クラスの部屋はこれよりも広く、ベッドが有るものや、掘り炬燵、それに露天風呂付き客室と言う物まであるらしい。
大戸旅館という旅館にチェックインして荷物を預けたら、バスでミニチュアワールドスクエアを見に行く。
ここには、世界の102の建造物がミニチュア化されて再現されており、ミニチュアの世界で世界旅行が出来る。
いつか行ってみたい世界に思いをはせるリオナに連れられ、またバスに乗ると、鬼怒川ライン下りをし、その後はロープウェイで夕方の山の上の景色を眺めて、宿に戻る。
ロープウェイを降りて、大戸旅館までは徒歩で30分程度だという。
夕陽暮れなずむ温泉街を食べ歩きする。
その際、リオナは何気なく、エレナの手を握ってきた。
前の世界でも、エレナはミサと手をつないで歩くことはあったが、その時のエレナは何も感じなかった。
だが、今、リオナと手と繋いでいる時は違う。
胸が苦しくなる症状が強くなったのだ。
「大丈夫ですか?鼓動が早いです。」
AILが言う。
「ああ。少し、息が苦しい。」
「この奇妙な症状は、やはり、リオナさんと何かある時に強く現れます。」
「世界観の違い―。そう考えていたのだが―。」
「違いますね。」
「-。」
エレナは列車の中で、はっきりと、リオナは自分に恋心を抱いていると言った。
エレナもAIL同様、恋心は自らを破滅へ追い込んだ危険な物だと考えていた。
現に、今、この世界に送り込まれた原因も、ミサの恋心と言う数値化できない曖昧で、紙切れよりも薄く、少しでも何かあれば自分の周りの人間全員が気付かぬ内に突如として、敵なると言う危険な物のためだった。
「しかし、だ。リオナさんとは、ずっと一緒に居たいと思うのだよ。理由は不明だが。」
エレナはリオナが隣に居るのに、AILに向かって言った。
「-。それは、貴方も危険な物を抱いている。そう考えられます。」
AILは断言した。
「ミサの時には、こんな事思わなかった。」
「だからどうしたというのです?そのような危険な物をエレナ自身が持ってしまえば、また、元居た世界と同じ事が起きます。いや、もっと危険な事が起こることも考えられます。」
「それでも、一緒に居たいのだよ。分からないが―。」
「リスクを考えれば、お勧めできません。」
AILとエレナは徐々に激しい論争になっていく。
だが、突如、リオナがそれを遮って、
「エレナ。貴方はいつもそうやって、機械に答えを求めてばかり。自分の考えは無いのですか!?それなら、本当に貴方はつまらない人です。貴方は人間です。人間なら、自ら考え、自らの意志を持って行動しなさい!」
と、糾弾する。エレナはそれに圧倒され、AILの緊急停止プログラムを操作してしまった。
これが、AILにとって、止めとなってしまった。




