第48話 列車旅
元居た世界でも列車に乗る事は殆どなかったエレナにとって、この列車旅は初めての旅行のようなものだ。
学校の修学旅行も、さして感動も無く、酷いと行くわけでも無い場所の下調べまでさせられる有様だったせいで、自分で旅行しているのではなく、強制的に旅行させられているという感想しか得られなかった。
だが、今回の旅行は違った。
最初から、何か分からぬが胸が高まるのだ。
展望デッキの硬いベンチに腰を下ろして、風を感じながら、流れる景色を見ると、それだけでも、世界が広がっていくように感じる。
ガラガラと、展望デッキと客室のドアが開くと、隣にリオナが腰掛けた。
「紅茶」と、紙コップにポットの紅茶を注いで渡す。
「もしや汽車旅は苦手でしたか?」
と、リオナ。
「いえ。ただ、こうした旅をするのが初めて故に、見る物すべてが目新しいのです。そもそも、自分はこの世界に来てから、栃木以外の町を知らないので余計に。」
「では、今回の旅で、世界を拡げてくださいね。私は―。」
と、リオナは顔を赤めながら、乾麺麭を摘まむ。
「アイルは?」
「座席の方です。」
「盗難事故の可能性も―。」
「それもありますが―。エレナ。貴方に敢えて言いたいのです。アイル抜きで。」
「何をですか?」
「エレナ。貴方はいつもアイルに最後の決定権を委ねてますが、貴方はコンピューターに全てを委ねるのならば、それはつまらない人です。」
「-。」
「アイルを抜きにして、私を見て欲しいのです。」
「-。」
「私は、貴方の事が―。いえ、貴方を思うといつも、胸が苦しくなるのです。これが、貴方への恋心なのか分かりませんが―。」
AILは客室と展望デッキの合間の扉のアクリル板越しに、エレナとリオナの会話の唇の動きを読んでいた。
AILは自分の無力さ以上に、リオナが恐怖に思えた。
リオナは、AILが管理するエレナに向かって「それはなんとつまらない人だ」と言った後、「私は貴方への恋心があるかもしれない」と言った。
恋心。
それは、以前の世界で、エレナが突如暴行され、AILも破壊の危機に直面した元凶だ。
そして、それを今、リオナがエレナに対して抱いている。
確かに、以前の世界でエレナに言い寄って来たミサと比べると、リオナはかなり重い恋心を抱いている様子ではある上、AIL自身も、リオナがエレナを思うと胸が苦しいという症状についての診察を行っていたが、どこにも異常は無く、精神的な物だと結論付けていた。
エレナはその原因について「世界観の違い」と考えていたのだが。
はっきりと、リオナは今、エレナに恋心と言う危険な物を抱いていると言ったことで、AILはこの後、自身が取る行動について、考え始めるのだった。




