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時計仕掛けの転移恋歌  作者: Kanra
第五章 思いの積み重ね
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第44話 旅行計画

 そらが筑波山観測所に帰る列車の時間が近付いてきた。

 そらは、国鉄の長距離鈍行列車で下館まで行き、岩瀬から私鉄の列車を乗り継いで筑波山観測に帰るのだ。


 先日、巴波川の水力発電の資材を取りに行った駅は私鉄だけの駅だったのだが、そらを見送りに行く駅は国鉄と私鉄両方が乗り入れて来る駅で、ホームは国鉄のホームが2面3線、私鉄は1面2線と言う構造でここに、国鉄と私鉄の連絡線が加わっている。


 かつては貨物も扱っていたのだが、手狭と言う理由で、国鉄の貨物も全て私鉄の駅で扱うようになったことから、この辺りの鉄道会社の覇権争いで私鉄が幅を利かせるようになったという。


 そらを見送るため、リオナとエレナは駅のホームへ入場券を買って入る。


 国鉄の両毛線のホームで、別れ際のお喋りをしていると、西の方から濃い茶色の電気機関車に牽引されて、水戸行きの普通列車がやって来た。


「じゃあね。」

「今度来るときには、また吞み明かしましょう!その時には、エレナもね!」


 等と笑い合って、そらを見送ったリオナは、エレナを見、駅の私鉄の出札窓口に隣接する旅行会社のカウンターへと向かった。


「ちょっと、旅に出ましょう。今度の土日で。」


 と、リオナ。


「この世界の知見を広げるという上でも、旅行をするのは効果的でしょう。」


 AILも言う。


 一方のエレナと来れば、旅行をすることなんて無かったので戸惑うが、AILに言われて頷いた。


「かと言って、一泊二日では、あまり遠くへは行けません。出来れば、伊豆の方まで行きたいですが、栃木を朝一番の列車に乗らなければなりませんから―。」


 旅行社のカウンター近くに置いてある時刻表を借りて来て、計画を立てるリオナだが、エレナはその時刻表さえ奇妙な物だ。


 エレナの世界には、ブリタニカ国際大百科事典のような分厚い書物もあるにはあるが、ほとんどの物はコンピューター等の記憶媒体になっており、分厚い書物は前時代的。そして、列車の時刻表もコンピューターで検索する物で、紙媒体の時刻表は殆どない。


 リオナは伊豆の下田温泉に行こうかと思いながら時刻表と睨めっこするも、


「ああ、上手くつながらずですね。」


 と、溜め息。


「欲を張らず。そして、完璧を求め過ぎない。私の旅行と遊びの時の基本です。完璧を求め過ぎると、どこかで狂った時、例え小さなことでもそこから全てがグズグズになってしまいます。こんな格言があります。「蹄鉄足りず馬走れず、馬が走れず伝令届かず、伝令届かず戦に敗れる」と。」


 リオナはエレナに視線を飛ばす。


 一瞬目があったエレナは、その刹那、息苦しさに襲われ、反射的に視線を逸らすと、そこには、鬼怒川温泉を宣伝するポスターがあった。


「あっあの―。」


 エレナはポスターを指し「あそこに行きたい」と言って誤魔化そうとしたのだが、


「あのポスターの場所はどうでしょう?」


 と、AILが先に言ってしまった。


「鬼怒川温泉の場所は分かりませんが、この町に来る私鉄が宣伝している場所ですので、案外良い場所かもしれません。」


 リオナは人差し指を唇に当てて考える。


「近すぎず、遠すぎない場所ね。新栃木から急行に乗った終点。私は過去に数回言った事ありますが、エレナは当然行ったこと無い場所です。それに、鬼怒川でのむ大吟醸もまた良しです。「大樹」と言うお酒が―。」


 後半の「お酒」と言う部分で、リオナの顔の筋肉が緩み、ニヘッと笑う。


「では、鬼怒川温泉にしましょう。」


 と、リオナ。


「はい。行きましょう。」


 AILが言うが、エレナは何も言わずに頷くだけだった。


 リオナはやはり、それに首を傾げるのだった。



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