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時計仕掛けの転移恋歌  作者: Kanra
第五章 思いの積み重ね
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第43話 記録映画の感想

 レンガ造りの写真館前の定食屋にも、リオナの学友が働いている。

 ひまり、と言う女性だ。


(どうもこの世界は女性が多い。)


 と、エレナは感じていた。


 呉服店の後、一本隣の大通りで少し買い食いし、巴波川の畔を歩きながら鯉に餌やりをし、昼頃に、写真館前の定食屋に入ったが、リオナとそらとひまりは、久しぶりに3人揃って昔の思い出話に花を咲かせ、エレナは取り残された格好になる。


 別にそれでもいい。


 エレナはAILに「この選択は正しかったのか。」と尋ねる。


「エレナの中にあるこの世界の知識を鑑みれば、正しいというより、やむを得ないが適切でしょう。」


 AILが言った。


 昼食の後、3人揃って、また、大通りを歩いてデパートに入る。


 この町には国鉄と大手私鉄2つの鉄道会社の路線が乗り入れて来ているのだが、国が所有している国鉄よりも、大手私鉄資本が幅を利かせており、最近になって出来たというこのデパートも、大手私鉄資本の物だ。


 と言って、東京のデパートと比べれば、何とも見劣りする3階建ての中型ビルに立体駐車場が付いた程度の物なのだが。

 余談だが、庄屋の仕事も、半分近くがこのデパート関連の物だ。


 デパートに入ると、東京の方からの流行のファッションブランドが売られているのが目立つが、先ほど、呉服店でその手の物の買い物は済ませ、用事があるのは最上階の映画館だ。


「今はここの駐車場になっている場所にあった、活動写真館が運営しているのよ。」


 と、リオナが言う。


「活動写真館が無くなったのは寂しいけど、流行の映画が見られるようになったのは良いね。」


 そらも答える。


 一方で、エレナと来れば、映画なんてほとんど見もしなかった。故に、今から映画を見ようと言う話になった時、「実は映画を見るのは初めてだ」と言ってしまった。事実だから。


 と言って、そらの帰りの列車の事も考えると、2時間以上の長編を見る事は難しいので、30分の記録映画を見ることになった。


 黒白映像で、この町ではなく、東京から東海道を走って大阪を結ぶ長距離特急列車「つばめ」の記録映画。


 鉄道好きというわけではないエレナだが、リオナが僅かに鉄道に興味を持っているという。


「学生時代には一人旅をしていたし、私とひまりも一緒に、那須温泉まで行ったこともあるよ。」


 と、そらが言う。


 他に観客の居ない部屋。このような記録映画は、鉄道好きの子供にも受けず、子供たちと来れば、隣の部屋でやっている怪獣映画に夢中のようだ。故に、少々騒いでも問題なさそうだ。


 スクリーンでは流線形の大型電気機関車が牽引する特急列車が、東京から東海道を西へ突っ走る様子が写り、リオナは興味深くそれを見ている。

 途中から、電気機関車からこれまた大型の蒸気機関車が牽引する映像になる。

 沼津、浜松、名古屋と言った、名前は知っているがエレナは行ったことも無い町へひたすら長い時間をかけて走る記録映画。


 ただ列車が走る様子だけでは無く、そこには重く重厚感のある音楽も加わる。


 途中、乗客の食事のシーンやベランダのような物が付いている客車の映像が流れた。どうやらこの映画の「つばめ」という列車はレストランや展望車も連結されているらしい。


 終点大阪に着いた。東京駅のシーンでは午前9時だったのに、大阪では17時になっていた。エレナの世界では考えられない事だ。エレナの世界では東京と大阪は東海道新幹線「のぞみ」が2時間で結んでいるし、飛行機なら1時間で行けるのに、この列車は8時間かけて走っていた。しかも、これが最速列車だと言うのだ。


「新しい特急列車を見ると、また旅に出たくなるわ。」


 映画の後、喫茶店でメロンクリームソーダを飲みながらリオナは言った。


(あれが新しい特急列車だと?あんな、ボロボロの電気機関車と蒸気機関車が?)


 と、エレナは驚いた。

 しかし、冷静になって考える。


「エレナ。冷静に考えてください。先日、駅に行った際に見た列車は、全て蒸気機関車が牽引してました。」


 AILが言う。


「それから考えると、リオナさんの言う「新しい列車」と言うのは、「新しい蒸気機関車」であり、それが、先ほどの映画に登場していた蒸気機関車という事ではないでしょうか?」

「あんな前時代の列車が?」

「信じようと信じまいと自由ですが、これが事実であると考えられます。」


 エレナはAILと話していたが、リオナとそらはこの話に入り込めなかった。

 かといって、エレナもリオナとそらの話に入り込むことが出来ない。


 たかが、30分の記録映画でも、エレナとリオナの世界観に相当な違いがあり、話に入り込もうにも入り込めないのだ。


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