表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時計仕掛けの転移恋歌  作者: Kanra
第五章 思いの積み重ね
42/57

第42話 無力なコンピューター

 エレナがお仕置きをされた後、そらは今日の夕方の汽車で筑波山観測所へ戻ると言う。

 リオナとエレナは急遽、ホコネに言われて、そらと町を見て歩く。


「しかし、今日の仕事は―。」


 と、エレナは言うが、


「今日はなんか、取引先が急にお休みになったようでねぇ。」


 などと、ウララが言う。

 仕方なしに、エレナは従った。


「嘘を言ってますね。」


 と、AILが言った。


「そうだな。」

「何かあると困ります。エレナ。エレナだけでも―。」


 しかし、ウララは「いいから!」と、エレナを押し出してしまった。

 リオナとそらは、無邪気に、商店街のあるミツワ通りへと出て行ってしまった。


「良いのだろうか。」

「良くは無いでしょう。しかし―。」


 AILも何か引っかかる。だが、どうすることも出来ない。


「命令ならば、リオナさんと、そらさんについていましょう。」

「そうだな。」


 エレナは頷いた。

 リオナとそらより数歩遅れて、エレナは二人の後を歩く。


「今朝の一件もありますが、この世界では、男性より女性の方が、立場が上のようですね。」


 と、AILが言う。


「ああ。薄々感じていた。白百合家の様子からも、親父さんである京太郎さんより、ホコネさんの方が上だった。」

「その次に、ウララさん。妙な具合です。」

「そもそも、この町を歩いていても、男性の姿は少ない。居るには居るが、女性の後を静々と歩いている。まるで花魁だ。」


 リオナとそらの話にまるで入らないエレナは、AILとこの町の話をする。


 不意に、そらが振り向く。


「奇妙な具合ね。今朝、裸を見たのに何も意識していない様子。」


 と、エレナに言う。

 エレナは一瞬怯えた。


「いつもこれ。エレナはアイルの言う事ばかり聞いている。その次に、私の言う事を聞いて―。でも、最終的に決定するのは、アイルなのよ。」


 リオナが言った。


「自我、自己決定、自分の意志、そうした物は無いの?」

「私が偶に、お尻を叩く。まぁ、大平山天文台における流星群観測は、自分で始めたけど、それ以外がねぇ。」


 言いながら、リオナはエレナに向かって振り向く。


「大平山天文台ですか?今日の天候から見て、太陽観測も不可能でしょう。」


 エレナは空を見上げる。

 空は曇っていた。


 それでも、商店街のステンドグラスは煌びやかだし、木造の商店や石造りの蔵は、以前、エレナが居た無機質な世界と異なり、温かみのある世界を生み出している。ハイカラ文化やレトロと言う物に疎いエレナだが、正に今いるこの世界が、それにあたるのだ。


「お昼に何食べたい?」


 と、リオナが言う。

 だが、これはAILもエレナもトラウマな質問だ。


 なぜなら、以前いた世界で、ミサという奴がお祭りの夜の夕食の決定権をエレナに委ねておきながら、結局はミサが一人で勝手気ままに決めてしまった挙句、混雑している事をエレナの責任にして自分は責任逃れと言う事があったからだ。


「自分が決めろと言うのですか?」


 と、エレナ。


「ええ。今日の昼ご飯の決定権はエレナにあるよ。私達二人の裸を見た罰として。」


 リオナが言う。


「しかし、まだ午前10時です。昼食には明らかに早すぎます。」

「だからこそよ。そうね。時間は12時から13時にするから、何が食べたいかを決めておいてね。ああ、私とそらは、ちょっと呉服店を見てきますね。」

「あっあの、せめて、そらさんとリオナさんの好きな物を―。」


 と、エレナは言うが、もう二人は呉服店に入って行ってしまった。

 一人、ミツワ通りにポツンと、エレナは取り残された。


「いかがいたしましょうか。」


 と、AILが言う。


「少なくとも、リオナさんはお酒好きだと分かるから―。」


 と、思考を巡らせる。


 そもそも、この世界でも外食するのは、このミツワ通りの喫茶店バクと、レンガ造りの片岡写真館前の定食屋くらいだ。


 一本隣の駅に至る大通りに行こうにも、仕事でもない限り滅多に行かないため、未だどこに何があるのか把握できていない。

 休日も、リオナと一緒に大平山天文台で観測助手をしているか、「ルナ」のAIL本体のメンテナンスをしており、極稀に、巴波川の畔で黄昏るくらいだ。


「俺はまだ、この世界の事を知らないな。」


 と、溜め息を吐いた。


「無理もありません。相当月日が流れましたが、この町の事で知っているのは、ミツワ通りと一本向こうの大通り、それから駅。庄屋から大平山天文台に至る道の事ですからね。」

「無難に、写真館前の定食屋としよう。」

「あまり良いとは思えませんが、いい加減な事を言って揉める可能性を考慮するなら、妥当な判断でしょう。それで、何か言われたならば、「自分はこの世界の事をあまりよく知らず、何が食べたいかと聞かれても、良いお店が分からないのです。」と言いましょう。」


 AILの判断が妥当だと、エレナは思った。

 呉服店から出て来たリオナとそら。


 二人にエレナは「昼食は、申し訳ないですが、自分はまだ、この世界の事をあまりよく知らず、何が食べたいかと聞かれても、お店が分からないので、いつもの定食屋で」と言う。


 リオナは「エレナがそれで良いなら、それで」と言い、そらも頷いた。

 エレナはこの時、AILの助けこそ借りたが、初めて、この世界で、大平山天文台での流星観測以外の事をAILが主導ではなく、エレナ自身で決めた。


 ほんの小さな一歩ではあるが、AILではなく、自分の意志で決めたのだ。

 AILは「あまり良いとは思えないが」と言う意見は出した。

 しかし、それでもAILの意見を汲んだ上で、エレナが決断した。


 リオナの狙いはそれにあったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ