第40話 AILの診断
翌朝、AILのアラームで先に目を覚ましたリオナは、自分がエレナの身体に絡みついているのに気付いた。
「やだ。私、なんてはしたない。」
リオナは顔が真っ赤になった。
「おはようございます。」
AILが言う。
「あっ―。」
リオナは動揺しながら「おはよう」と返事する。
「昨日は相当吞まれたのでしょう。この部屋に乱入して来るや否や―」
「いっ言わないで!」
AILが言うのを、リオナは顔に手を当てながら遮った。
「しかし事実です。それから―。」
「お願いだから!エレナの前では言わないで!」
「-。リオナさん。私の端末を、貴女の心臓部に当ててください。」
「-。なっなぜ!?」
「リオナさん。エレナを思うと息が詰まると言いましたね。そうした症状の具体的な原因としては、肺疾患、心疾患、血液疾患、そして、精神的なストレスなど、様々なものが考えられ、また、昨日の様子から、軽度の急性アルコール中毒及び、アルコール依存症の可能性もあります。詳しく診察しなければ、エレナを思うと息が詰まると言う症状について、具体的な診断が出来ないのです。」
「-。分かった。」
リオナはエレナの身体から離れ、AILを自分の胸元に当てる。
AILは聴診器の役割を担って、心音や心拍数等を測定する。
リオナはエレナの前で自らの胸元を広げて、AILを胸元に当てているのだから、息が詰まる症状が更に増す。だが、
「どこにも異常は無いですね。」
と、AILは言う。
「異常無しならば、精神的な要因。それしか考えられません。しかし、なぜ、それがエレナを思うと現れるのか―。」
「あの、お風呂に行ってくるわ。」
「そうですね。入浴でリラックス効果を得るのも、効果的でしょう。」
リオナは真っ赤になって、風呂に向かって行った。
そのタイミングで、エレナも目を覚ました。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
「リオナさんですが、先ほど、診察をしました。」
AILはリオナを診察した際のデータを表示する。
一つ一つ解説していきながら、「特に異常は無く、精神的な要因による物だ」という結論を示す。
「そう、か。俺は異分子だからな。」
「エレナ。顔に緊張が見えます。そして、貴方もリオナさんを思うと息が詰まると言いましたね。」
「ああ。」
「念のため診察します。」
「頼む。」
AILは次いで、エレナを診察する。だが、出た結論はリオナと同じだった。
「どういうことでしょう?」
AILはお手上げだと言う具合だ。
「だが、これが事実。違うか?」
「違いません。しかし、なぜ互いを思えば息が詰まると言うのでしょう?それが分からぬのです。」
「簡単な事さ。異分子である俺と、現実であるリオナさんの違いだ。要するに、こっちはまだ、リオナさんという現実を、リオナさんは俺という異分子を、完全には受け入れられていないってことだろう。なら、話しは簡単だ。この世界を更に詳しく知り、リオナさんとこの世界と言う現実を受け入れるようにするのではなく、出来る限り早く、元の世界へ帰る道を見つけるのだよ。」
「エレナ。私は前者の方がより現実的と考えます。そもそも、この世界に来た際に「ルナ」が発生させた1.21ジグワットという電流は、非常発電機1基で生み出すことは不可能です。1.21ジグワットの電流を生み出し、更に、それを地面へ漏電させ、ワームホールを形成し、次元転移したのです。しかし、内燃発電機が使用できないならば、絶対に不可能です。確かに、1箇所、それを用いらずに次元転移が出来る可能性のある場所ならありますが―。」
「おかしいな。」
「どうしたのですか?」
「いや、帰ると言う考えをしたが、そうしたら、また、リオナさんに対して息が詰まるように感じたのだよ。」
「-。分かりませんね。」
「だが、人間関係なんて、ミサの例から分かる通り、薄っぺらい紙屑と同じだ。何か起きればいきなり破滅する。まぁ、この世界から帰る事が不可能と言う場合に備え、バックアップ体制を作っておいた方が良さそうだな。」
エレナは言うと、風呂に向かった。
リオナのせいで、風呂に入っていなかったのだ。
だが、AILはリオナが入浴中である事を伝えていなかった。
薄っぺらい紙のような物である人間関係なら、別に一緒に風呂に入っても何ら問題は無いと考えたからだ。
脱衣所に入った時、リオナは下着姿だった。
ちょうど風呂を出た所だったのだ。
「あっ。」
リオナはまた、顔が赤くなった。
「ちょっと!ノックぐらいしなさい!」
「しっ失礼。」
以前なら、そのまま風呂に入ったであろうエレナだが、今回は反射的に、脱衣所のドアを閉めて出てしまった。
「そのまま入ればよいのに、なぜ?」
「分からん。」
と、エレナはAILが言うのに首を横に振る。




