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時計仕掛けの転移恋歌  作者: Kanra
第五章 思いの積み重ね
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第36話 学会からの報告・空間トンネル

 並行世界である、この世界にやって来て既に1カ月近く経っただろうか。


 だが、エレナにはこの世界に他に居た世界があったことが嘘のように感じる事が多々ある。


「人間の環境適応力と言うのには驚きます。かくいう私も、この世界の情報が多々入りました。しかし、私の役目は変わりません。」


 実験自動車「ルナ」に搭載されているAIL10000型コンピューターと、その携帯型タブレット端末のAILは言う。


 眼鏡をかけた長身の女性、リオナの仕事を手伝いながら、最近では、世話になっている庄屋の仕事も手伝うようになったエレナは、自然と、庄屋の主人である白百合京太郎と、その娘であるホコネとウララ姉妹とも話すようになっていた。


 しかし、やはりまだ、エレナの話し方は機械的な話し方であり、それに違和感を覚える者も多々あった。


 先日、リオナが大平山天文台で撮影した、りょうけん座の銀河に付いて、東京麻布天文台等の天文学会は「世界で初めて「撮影に成功した」連銀河」として発表した。リオナは世界で初めて連銀河を見つけたと思ったのだが、どうやら一足遅く、アルマアタ天文台でこの銀河が連銀河である事が発見されていたのだ。しかし、撮影には至らなかったため、アルマアタの発見が半信半疑であったところに、リオナの撮影した写真が発表されたので、アルマアタの発見の裏付けが出来たと言うわけなのだが、結局はアルマアタの方に関心が行ってしまい、リオナや大平山天文台への関心はまるで無く、強いて言うなら、エレナが偶然目撃し、リオナがスケッチさせた大火球が、同日、あちらこちらで目撃された情報の裏付けになった程度であった。


 リオナは、AILが携えているこの世界では未知の情報を欲しがっていた。AILは可能な限り教えようとしたが、エレナはリオナがかつて、アンドロメダ星雲が銀河であることを発見した際、大平山天文台が破壊されそうになり、共に働く研究員が皆逃げ出し、大平山天文台はリオナが一人で観測する場になったという過去がある事から、自分とAILが持つ、この世界では未知の情報を一気に放出すれば、それは、自分とAILが破壊されかねないと言う懸念から、未知の情報を教える事をためらった。代わりに、AILと共に空の何処を観測してみろと言う助言を与え、リオナにAILが持つ情報を発見させると言う動きに出た。


 そうしていく内に、エレナは元の世界に戻る道が見えなくなって行くのだった。

 今夜もまた、リオナはエレナとAIL10000型コンピューターを伴って、大平山天文台で夜空を見上げていた。


 エレナはこの山の麓にある神社付近に見つけた、空間の歪みが気になり、それを詳しく観測してみたかったが、リオナとAILは認めなかった。

 だが、リオナの話を聞く限りでは、この空間の歪みは、エレナがこの世界にやって来た際に現れた可能性が高く、この空間の歪みを利用すれば、元居た世界に戻れると考えられるのだ。

 しかし、AILはリオナに夜空のある一点を観測させた。


 それは、おおぐま座の方向に一点だ。


「おおくま座方向、距離は138億5000万光年。」

「それは無理でしょう!この望遠鏡には確かに、新鋭望遠カメラこそ付いておりますが、そのような距離の観測は、世界でも類を見ません!」


 無茶苦茶な要求だった。


「では、白鳥座の―。」


 と、再び目標を変えようとするAIL。だが、その途中で、


「この望遠鏡ではX線検出が出来ないですね。」


 と言う。


「X線望遠鏡は机上の空論よ。」

「-。」


 AILは黙ってしまった。


 だが、それは、リオナの観測結果を根拠にし、エレナを元の世界に戻すことを防ぐと言う方法が使えないため、別の案を模索しているのだった。


 AILはリオナに重力レンズを発見させ、その理論をリオナに解かせ、エレナが拘る空間の歪みは、空間トンネル内に発生した超重力による重力レンズ効果による物である可能性があると結論付けさせ、この超重力を生み出している物は、ブラックホールにおいて他なく、仮に空間の歪みに飛び込んだなら、空間トンネル内のブラックホールに突入し、死亡することになると考えさせようとしたのだ。


 しかし、この世界において、確かにブラックホールや重力レンズと言う物の理論は僅かにあるが、それを実証、発見に至る術がなければ、結局は机上の空論で終わってしまうだろう。


 だから、AILはリオナにそれを教える事が出来なかった。


 証明する手段がないから。


 そんな事とは知らず、エレナは空間の歪みを見るのを止めて、大平山天文台に戻って来た。まもなく、一定時間の流れ星観測の時間だ。


「あの歪みに付いて何か分かった?」


 と、リオナが聞くが、エレナは首を横に振るだけだった。



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