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時計仕掛けの転移恋歌  作者: Kanra
第三章 ここは異世界
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第31話 AILの懸念とリオナの夜

「こちらは大平山天文台です。筑波山観測所取れますか?」


 リオナが階下で別の観測所と連絡を取っている。


「大平山天文台、これより観測を開始します。観測対象は、りょうけん座の天体。」

「了解、大平山天文台。」


 というやり取りが聞こえる。

 エレナはなんらすることも無く、ただ夜空を眺めるしかなかった。


「エレナも人間です。人間なら、自分で考え、人間同士、活発に話すことも必要です。全てをアイルに頼り切りでは、いずれ、生きることは困難になるでしょう。それは、この世界でも、元の世界でも。今夜ここに来たならば、自ら考え、自らの意志で行動する事も考えなさい。」


 リオナに言われた事が頭の中で何度も反響する。

 こういう時、エレナはいつもAILに頼って、AILの回答を得ていた。


 元の世界で付き合っていたミサの件でも、告白された時、AILは間をおかず「見た目に惚れたというだけで付き合えるのなら、付き合えばよい。」と答えた。そのなれの果てで、今、エレナは訳も分からず、暴行された上、この世界へAILと共に放り込まれた。


 エレナは時折、階下のリオナを覗くが、リオナは一人、光学望遠鏡を覗いて先ほど言っていた「りょうけん座」を観測している。


 エレナはAIL無き状態で生きられるのかを考える。


 しかし、いざ、星空を眺めていると、AIL無きエレナは何も出来ない小さな存在でしかないと考えてしまった。


 エレナの世界では、星空を眺める事は無かった。


 理科の授業で一応、最低限の天体の事について学ぶのだが、町灯りだらけで夜空も常に明るく、星を見ようにも一等星と言われる星が肉眼でやっと見えるか見えないかと言う具合で、月でさえぼやけて見える有様なのだ。

 そのため、今見ている満天の星は、エレナにとって新世界の象徴にもなり、新世界の広さを伝えると同時に恐怖でもあった。


 不意に、夜空に光る線が見えたと思うと、一気に増光しながら地上に向かって落ちて来る。


「なっ!」


 エレナは驚いてそれを目で追った。


 それは、火球という非常に明るい流星だ。火球は南の空の低いところで消えた。


 エレナは「大きな流れ星を見た!」と階下のリオナに向かって叫ぼうとしたが、声が出なかった。ただ、「あっ!」と、階下に落ちそうになった。


「何をやっているの!」


 リオナが言いながら、階段を駆け上って来る。


「ごめんなさい。その、大きな流れ星が見えたので―。」

「それは、火球ですね。どのように見えたか、私に―。いや、図示してください。下に、大平山天文台の南の空を写した図が数枚ありますので、そこに、どのように見えたか書き示してください。」


 リオナもフィルムカメラで夜空を撮影していたが、現像に少々時間がかかる上、東の空に向いていたため写っているか不明だ。


 エレナの記憶が鮮明なうちに、南の空を写した図に、横からリオナが「おおよそこの辺りが南天」と言いながら、ちょうど南天の空高くに見えるおおくま座と、そこから伸びる春の大曲線の星座を書き、それを元に、エレナはどのように大火球が見えたかを書き示す。


 それを、カメラ・アイを通じて見ていたAILは、思考を巡らせていた。

 そして、エレナに「回路がおかしい。」と訴えた。


「またか?」

「ああ。この世界に来て少しマシになったのだけど。」

「-。この世界には、替えの部品が無い。本当に使えなくなってしまうのならば、問題の回路を切ってしまい、安全確保と延命措置に努めないと。」

「-。」


 AILは長考する。


「確かに、交換部品はいずれ尽きるでしょう。ルナに搭載されている予備パーツをもってしても。」

「なんだって?」


 エレナは驚いた。


「最低限の修理工具とスペアパーツは、糸川教授が搭載しておりました。」

「でも、いつかスペアの部品は無くなるでしょう?」


 リオナが言うと、AILはまた黙り込んでしまった。


「-。その通りです。そうなった際には、回路を切るのも止む無しですね。」


 と、AILは言葉を絞り出すように言った。


 リオナはまた、望遠鏡に向かい、長時間露光のスペクトル撮影で「りょうけん座」を撮影する。


 北極星を中心に動く南天の星。


 リオナは2時間半にも及ぶ長時間撮影を行う。


 そして、その間に筑波山観測所と再度、大火球についての連絡を取り、フィルムを現像してみるがこちらには火球の一部しか映って居なかったため、落胆する。筑波山観測所でもちょうど北の空を撮影していたため目撃だけであり、撮影は出来なかった。結果的に、エレナのスケッチだけが、大火球の便りになった。


 夜食に乾麺麭と紅茶を嗜むエレナは、何もしていないわけでは無かった。


 先ほどの大火球の後、星座早見の紙面上に一定時間中に見えた流れ星の個数を記録していた。


 どういう事に役立つか分からぬが、「エレナも人間です。人間なら、自分で考え、人間同士、活発に話すことも必要です。全てをアイルに頼り切りでは、いずれ、生きることは困難になるでしょう。それは、この世界でも、元の世界でも。今夜ここに来たならば、自ら考え、自らの意志で行動する事も考えなさい。」と言うリオナの言葉の通り、今、自らの意志で何が出来るかを考え、流星を記録するという事をしたのだ。


 こんなもの、AILに記録させれば良いのだが、エレナはこの時、初めて、自らの意志で行動したのだった。


 柱時計が深夜0時を打ったところで、観測は一旦終了。

 リオナは最後に撮影した写真を現像していたが、それを見てリオナは驚いていた。


「これは―。」


 リオナはりょうけん座の一角を撮影していた。それに写っていたのは渦巻を巻く星雲。いわゆる、渦巻銀河だったのだが、渦の端にまた別の星雲が見えるのだ。


「学会に提出ですね。これは。明日は観測しないで、仕事終わりにレポートをまとめ、明後日の朝一の汽車で東京麻布天文台へ送りましょう。その際、エレナの流れ星の記録と大火球の記録も一緒に送りましょう。」


 と言うリオナの目は輝いていたが、同時に何か別の物を感じた。

 だが、エレナはそれが分からず、ただ頷いた。


「これは子持ち銀河ですね。」


 無機質にAILが解説しようとした。

 AILは、リオナが撮影した物が何かを知っているのだ。

 しかし、エレナはリオナの輝いている目を見た時、


「アイル。ちょっと黙れ。」


 と言った。


「なぜ?事実を歪める事は―。」

「アイル。この世界はどうやら、科学技術、天文、そうした物が元の世界より大幅に遅れている。その世界に、元の世界の物を持ち込んだらどうなるか―。リオナさんが大平山天文台の過去を話したが、それ以上の事が起こる可能性だってあるぞ。下手をすれば、俺達は自滅する可能性だってある。」

「-。」


 AILは黙り込んだ。

 だが、リオナは逆に「やはりエレナは人間ですね」と微笑んだ。


 翌朝も早くから、リオナは東の空にカメラを向けると、太陽から遠ざかる彗星を撮影した。それは今日の汽車で東京麻布天文台に送るらしいが、その際、追加発表在りと追記文を付け加え、リオナが撮影した銀河の写真を後から送ると知らせた。


 大平山天文台を後に、また庄屋へ戻る。


 その際、リオナはルナをある場所で止めた。

 リオナは道沿いの一点を示す。

 そこには、奇妙な空間の歪みがあった。


「これが何か分かる?」


 エレナはタブレット端末のAILのカメラ・アイ越しに、AILに記録、分析させる。AILは長考しながらも「この辺りを見せろ」等と指示を出す。


 エレナは周囲を見回し、ここがこの世界にやって来た際に最初に見た景色であると気付いた。そして、それをAILに伝え、


「ここから元の世界に帰れるか、試してみないか?」


 と言う。


「現実的な考えではありません。そもそも、私は、あの世界で起きた不可解な事件からエレナと私自身を守るために、次元転移プログラムを作成したのです。なのに、また元の世界に戻ってどうするのです?次こそは、殺されます。私は認めることが出来ません。」


 AILは一蹴して、エレナの考えを認めなかった。



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