第2話 土曜日
土曜日の朝。
AILの電子音で起きたエレナ。
今日は、糸川教授の研究室から糸川教授がやって来て、AILのデータを渡す。
毎週土曜日、携帯しているAILのタブレット端末を通してAILが記録した人間同士の会話を元に、AILはその知性をアップデートさせるのだ。
エレナからすれば、AILは人間と同じ、と言うより、人間以上に信頼関係を築くことが出来る存在である。
家事をこなして、昼食の頃、糸川教授は研究チームのメンバーと共にやって来た。
「人間と話しやすいように元々プログラムされているとはいえな。」
と、糸川教授は言う。
「糸川教授。人間と一緒に働き、人間と一緒に過ごし、刺激的な関係を持つことは楽しいです。」
機械音声の無機質な声で、AILは答える。
「本心から言っているのです。アイルは。」
エレナも答える。
そのエレナもまた、機械音声のように無機質な喋り方である。
「ところでエレナ。」
糸川教授が言う。
「普通自動車運転免許は取得出来たか?」
「はい。公安委員会指定教習所を経て、MT免許を取得しました。」
「それなら結構だ。来週、滑走路を使用した実験を行う。」
「実験?」
「ああ。AIL10000型コンピューターを搭載し、完全自立航行、電子制御装置を兼ね備えた次世代自動車の試作機のね。今夜には大学に着いているから、明日、大学キャンパス内道路で軽く走ってみると良い。」
と、糸川教授は言う。
アップデートが終わり、糸川教授の研究チームと共に、エレナは大学の学食で昼食を摂る。
「ところで、今日はお祭りに行くようだね。」
と、糸川教授。
「はい。18時に彼女が駅に来るので、合流してお祭りに行きます。」
「そうか。まぁ、楽しみたまえ。」
「あまり楽しいとは思えません。騒音だらけでうんざりしそうです。」
苦言を漏らすが表情は変わらない。
これでは、AILがコンピューターなのか、エレナがコンピューターなのか分からなくなりそうだ。
「私としては、楽しみです。人間同士の会話がより活発に行われる場所に行き、そこで得たものを私の知性に活かせるなら、これほどまでに楽しみな物は無いでしょう。」
と、AILは無機質な声で言った。