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時計仕掛けの転移恋歌  作者: Kanra
第三章 ここは異世界
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第27話 新日常の朝

 おかきと、海苔と、乾燥鮭が入ったお茶漬けの朝食。


 エレナの世界にも、お茶漬けと言う物はあったが、米に粉末をふりかけてお湯を入れただけで出来る物だ。


 確かに、この世界のお茶漬けも簡単に出来たのだが、米を炊くと言う事は元の世界ではやらなかった。


 そもそも、炊いた米と言う物もあるにはあったが、既に焚いてあるものが売られていたので、自分で米を炊く事は無かった。


「誰かと一緒に食べる食事は、何か違いますね。」


 と、リオナは微笑む。

 しかし、エレナは無表情。


 エレナは元の世界とまるで異なる食事風景に戸惑っていた。だが、何かが同じであることが気付いた。

 リオナがラジオでニュースを聞いていたのだ。

 テレビもあるにはあるらしいが、この集合住宅の共用リビングには無いらしい。

 しかし、今度はそのラジオに違和感がある。

 やけに「ザッザッ」と雑音が混じるのだ。


「ふーん。今日は、磁気嵐は起きていないけど、まぁちょっとこの辺り電波悪いからねぇ。」


 と、リオナは言う。

 エレナの世界のラジオは、衛星通信ラジオだったので、雑音が混じる事はあまりなかった。


「今日の仕事内容は?」


 と、リオナに聞いたのはアイルだった。


「巴波川の瀬戸ヶ原堰に作る水力発電所の資材が、今日、汽車で小山から運ばれて来ます。その資材運搬です。白百合家はこの水力発電所の電力をミツワ通り地区の商店や住居、そして街灯へ供給する電気会社にもなるのですよ。」


 リオナが答える。


「汽車の到着は10時との事です。資材の大きさから、私の車で行きます。」

「エレナは運転免許を取得しておりますから、運転はエレナに任せましょう。」


 エレナは食事を終えると立ち上がり、食器を持って流し台に向かう。

 元の世界でも食器洗いはしていた。

 ディストピア飯の食事を入れるトレーを洗って再利用するためだ。


「ふふっ。エレナは私の助手の他、みんなの皿洗いも頼もうかしら。」

「賃金は変わりますか?」


 AILが先に聞く。


「それは京太郎さんと、ホコネに聞いた方が良いわね。」

「生活については、お世話になっている以上、出来る限りの事をします。故に、最低賃金のみでもいただけるだけ幸いです。」

「それについては、アイルでは無くて―。」


 リオナはエレナに視線を飛ばした。

 エレナは皿洗いを終えたところだった。

 AILはリオナの行動が理解出来ず、エレナも理解出来なかった。


「あっ、資材―。もう、行かないとですか?」


 エレナが口を開いたと同時に、勝手口へ向かう。


「あっ待って!汽車は10時に来るわ。」


 リオナは言いながら、大きな柱時計を指差した。

 まだ、8時を回ったばかりだった。


「今日は経理や会計と言った事務の仕事は少ないですが、その分の肉体労働があります。女手一つでは手を焼きますが、男手があれば物凄く助かります。」


 リオナは微笑む。


「では、まだ少し時間がありますので、ホコネとウララ姉妹の朝食の皿洗いしに行っては如何でしょう?母屋に行ってみましょう。私は、中庭にある観測機器のデータを見に行きますので、一緒に行きますわ。」


 と、リオナに言われ、エレナは母屋に向かう。


「おはようございます。」


 母屋の居間に入ると、やはりウララはエレナを見ると怯える。


「リオナ。どうしてエレナを電算室から出すの?ウララが怯えているわ。」


 ホコネが言う。


「お二人の朝食後の皿洗いをしたいと。ウララ様を怖がらせてしまって、ごめんなさいと。」


 リオナは微笑みながら言ったが、エレナはリオナの後ろに隠れてしまった。


「なぜ隠れるのです?」

「-。」

「隠れていてはなりません!ほら仕事をしなさい!」


 リオナに尻を蹴り飛ばされ、そのまま、台所へ押し込まれる。

 見ると、朝食の調理に使ったフライパンやボウルが流し台に置いてあった。

 エレナは物も言わず、洗い物を始めた。

 後ろから、食器を持ったウララが近付いてきた。


「ホコネは、家事はあまり得意でない。だから、私が家事をする事が多い。その代わり、仕事は良く出来る。」


 と、ウララ。


「得手不得手。と言ったところでしょう。お互い、出来るところ出来ないところがあり、それをカバーしあえるということですね。」


 AILが喋ると、ウララはやはり怯える。

 台所の小さなテーブルに置いてあるAILは、怯えるウララに、


「貴女と話がしたいです。」


 と声をかけながら、画面にキーボードを表示する。

 怯えながら居間に行こうとしたウララは立ち止まって、AILに正対する。

 だが、キーボード操作の仕方が分からない。


「エレナさん、どうすればいいですか―。」


 と、ウララが言う。

 洗い物を終えたエレナは、AILに向き合いながら、


「アイル。ウララさんはキーボード操作が出来ない様子だ。音声認識を頼む。」


 と言う。

 ウララはその時、初めてまともに、そして、はっきりと物を言うエレナの声を聞いた。


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