第25話 昼食とリオナの住まい
昼食のため外出すると、白百合家の主人にリオナは告げる。
白百合家の大黒柱にして、庄屋の主人、白百合京太郎はそれに頷く。そして、エレナには「住まいはリオナの隣の部屋だから、仕事が終わったらリオナに案内してもらえ」と言った。
白百合ホコネと、白百合ウララ姉妹は母屋で昼食を食べるようで、リオナの誘いには着いて来なかった。
リオナに連れられ、幸来橋の袂から川と反対方向に歩き、一本目の商店街を歩く。
少し歩くと喫茶店があった。
「私の行き付けよ。」
と、リオナは言う。
白熱電球の電灯で照らされた店内に入ると、並んでカウンターに座り、リオナはナポリタンを頼む。エレナもナポリタンを頼んだ。
「飲み物はまだお昼だし、仕事もあるから、アイスティーで。」
「あっ。自分もアイスティー。」
飲み物も頼む。
だが、エレナはその後、また驚いた。
エレナの世界では、機械が食事を作っていた。
当然、飲み物だって、機械が調合して作っていた。
しかし、この世界では、エレナの目の前で、マスターのお爺さんが、アイスティーを作っているし、奥の厨房で、おばちゃんがナポリタンを作っているのが見えるのだ。
「人が料理を―。」
「当たり前でしょう?何を驚いているの?」
「料理は機械がするものでは?」
それを聞いて、
「そんな、機械で料理なんて―!いや、確かに、自動販売機と言う物はあるけど、それはあらかじめ容器に入れた飲み物を販売するか、予め下処理された物を提供する物で―!いや、えっえぇー!」
と、本気でリオナは笑い転げている。
エレナは首を傾げる。
エレナの世界では、機械が料理をするし、ナポリタンのようなスパゲッティは基本的に冷凍された物を解凍するだけなのだが―。
奥の厨房で、おばちゃんが何かを炒めているのが見え、目の前ではお爺さんがアイスティーをグラスに注いで、リオナとエレナに渡した。
「-。人が作ったもの―。」
エレナは恐る恐る、それを口に運んでみる。
「-。違う。」
「えっ?」
リオナが振り向く。
「自分の居た世界のアイスティーとは違う。確かにアイスティーだけど。」
「文句言うつもり!?」
リオナが眉間にしわを寄せて詰め寄る。
「違います。自分の居た世界のアイスティー以上に、美味しいのです。本当に。」
エレナはこの世界に来て初めて、感動と言う物を感じていた。
元居た世界でも、感動すると言う事はまるで無かった。だが、この世界に来て、まだ数時間程度で、エレナは感動していたのだ。
それも、リオナからしてみれば、小さな事で。
「ナポリタン、お待たせ!」
と、おばちゃんがナポリタンを持ってきた。
それを、エレナは頬張る。
「なっ!?」
エレナは驚いた。
ナポリタンなど、元の世界の大学の学食もAILが調理した冷凍食品も、全て機械が作る同じ味の物で、味の違いが生じることは有り得なかった。だが、この世界のナポリタンは違う。元の世界の物よりも美味いと感じるのだ。
「ふふっ。たったこれだけの事で感動している。エレナと話してまだ数時間。まるで機械が話すような話し方しか出来ず、中身は機械なのかと思ったけど、エレナはやっぱり人間なんだね。」
と、リオナは微笑んだ。
だが、エレナはそれが分からない。
「いや、自分は人間です。」
と、答える。
「ええ。エレナは人間。でも、その姿は人間でも、中身が機械なのでは無いかって感じていたのよ。まるで感情を表に出さないから。」
「感情?」
エレナは首を傾げた。
感情と言う物が分からないからだ。
その後、午後も仕事を熟し、仕事が終わった。
リオナは白百合京太郎に言われた通り、自分の住まいを案内する。
エレナの住まいは、リオナの隣部屋となる。
川向こうの庄屋の敷地の外れに、3階建ての木造住宅があった。
どうやら集合住宅らしい。
「風呂やトイレは共用。部屋は六畳一間。電気は来ているから自由に使って。押し入れには布団がある。クローゼットもあるから、私物はここに入れて。ああ、でも、鍵は中からかかっても、外からはかからないから気を付けて。」
と、リオナに住まいの事を説明される。
「コンロもあるにはある。ただ冷蔵庫は共用。まぁ、今、住んでいるのは私とエレナの他はお手伝いさんの他には居ないから。元々、奉公人向けの住居なのよ。」
と、リオナは言う。
「今夜は天気が荒れて、星は見えないから、大平山天文台での観測は無し。」
と言いながら、リオナは共用冷蔵庫から食材を出す。
「えーっと、1.5合焚きかなお米は。おかずは―。餃子が作れる。後、味噌汁も。ふふ。お酒が進みそう。えーっと、あっ、新潟の越乃主蔵の大吟醸酒があったわ!」
リオナは「ふふふっ」と笑みを浮かべると、エレナに、
「夕食作るの手伝ってね。」
と言った。
「えっ?」
「まさか、料理したこと無いの?」
「-。」
エレナは機械に食事を作って貰っていた。
エレナの世界では料理は機械がする。それが当たり前だった。故に、自分で料理をすると言う教育を受けていないのだ。
「お米の研ぎ方は?焚き方は?」
リオナが問うが、エレナは目を泳がせる他ない。
「仕方ない。」
と、リオナは自分で料理をすると言う。
「何もせずに待っていた方が良いでしょう。分からないのに、下手な事をすれば、リオナさんの足手まといです。」
と、AILが言った。
「分かった。」
エレナは頷く。
またも、リオナはそれに違和感を覚えた。
「分からないなら、聞けばいいのに。」
と、リオナは小さな溜め息を吐いた。
リオナは夕食を食べ、夕食後、エレナを先に風呂に入れた。
その間に、リオナはAILのタブレット端末に触れる。
「エレナとは話せない内容なのだけど。」
「秘密裏にですね。」
AILが起動した。
「エレナと話していると、違和感を覚えるのはなぜ?エレナを育てたのは誰?」
「違和感については、個人の感じ方があります故、何とも言えません。しかし、エレナには両親が居りません。幼少期に両親を亡くしたのです。そして、親戚の大学教授の実験のため、私が育てたのです。」
「-。機械による子育て。」
「はい。」
リオナは言葉を失った。
代わりにAILがリオナに言った。
「この世界には、私やエレナを管理していた教授が居りません。そのため、リオナさん。貴女に、エレナの管理をお願いします。」
「つまり、私があらゆることを教えろと?」
「はい。私は常に正常ですが、この世界の事は把握しきれない点もあります故に。」
「-。分かった。」
リオナは頷いた。




