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時計仕掛けの転移恋歌  作者: Kanra
第三章 ここは異世界
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第23話 リオナの仕事

「ガチャガチャ」と、ボタンを操作するリオナ。


 コンピューターの扱いには慣れているエレナだが、リオナの操っているのはコンピューターではない。


(タイプライター?)


 と、エレナは覗き込む。


「無言で無機質に迫られれば、迫られた側は恐怖でしょうね。更に、この世界では喋らない機械が喋ってはね。」


 リオナも冷たく言った。

 長身で眼鏡を掛けた容姿は、如何にも仕事の出来る女性だ。


「これを。」


 と、リオナは帳簿を渡す。


「明日の朝、この庄屋に銚子から巴波川の水運で運ぶ水産物と醤油の目録です。料理店や市場からバラバラに手書きで受け取ったものを、そのままファクシミリで送信するのでは、相手方に見えにくいです。故に、タイプライターで印刷し、それをファクシミリで送るのです。」


 と、リオナに教えられ、エレナは言われた通り、タイプライターで打ち込む作業を始める。

 リオナは横目で、エレナの様子を見るが、自分よりも圧倒的に早くタイピングしているのが目に見えて分かり、閉口する。


「おおよそ、これで良いでしょうか?」


 タイプライターで打ち込んだ書類を見せる時、エレナは初めて、リオナに向かって自ら口を開いた。


「えっええ。では、これを銚子に。それが終わりましたら―。」


 と、別の仕事を指示する。


 それを処理する速度がリオナよりも圧倒的に早いエレナは、今に、リオナからも妬まれる存在となる。

 そう考えている存在があった。

 それは、今の今までずっと黙っているAILだ。


 エレナは仕事の間、AILに頼ることが出来なかった。

 AILは庄屋の母屋から電算室へ押し込まれる際、フリーズしていたのだ。


 そのため、エレナはAILの助け無しで、リオナの仕事を覚えて行かなければならなかったのだが、幸いにも、AILを始め、多数のコンピューターを扱っていたことで、情報処理やタイピングに精通していたため、あっという間に仕事を覚えてしまった。


 ただ一つ、エレナは突如、この世界へ放り込まれ、突如、ここで奉公人となり、電算室に押し込まれ、リオナの助手にされたため、未だ、状況が分からず、リオナから飛んでくる質問に受け答えが出来ない。


「私は、天文台で隕石落下と地震を観測して、慌ててここに来て、ここの百葉箱の観測機器のデータを調べたのよ。でも、ここには地震があったと言う記録は残ってないのよ。貴方がこの世界に来た事と、何か関連があるの?」


 と、リオナが聞くが、エレナは首を横に振るだけ。


「あの―。」


 と、エレナが言う。


「ああ、厠ですね。」


 と、リオナが頷き、エレナが出て行く隙を突いて、リオナはAILのタブレット端末に触れた。


 始めて見るタッチパネルディスプレイに、リオナは驚いた。


「尋ね事は何でしょうか?」


 と、ディスプレイに表示され、同時にキーボードが現れた。

 恐る恐るタッチパネルに触れてみると、入力が出来た。


(あっ!もしやこれはタイプライターと同じ?)


 と、思いながらリオナは「私は軽井沢里緒菜です。」と入力する。


「軽井沢里緒菜、ですね。私はAIL10000型コンピューターです。」

「どこから来たのですか?」

「出所は不明です。しかし、この世界と並行して存在する別世界から来ました。」

「隕石落下と地震を大平山天文台で観測したのと何か関係がある?」

「大平山天文台?それが何か分かりません。この世界の天文台でしょうか?詳しい位置が不明です。しかし、並行世界からこの世界へ飛び込んで来る姿がそのような形で可視化された可能性はありますね。」


 リオナはエレナが異界の人間と更に実感した。

 大平山天文台で観測した隕石と地震は、エレナがこの世界へ来た様子の可能性が高いからだ。

 これを世界の学会に発表したらどうなるのだろうか?


 引き続き、キーボード入力により、AILと会話しようとしたのだが、エレナが戻って来たのでやめた。

 詳しい事は、もう少し後で聞けばよい。


「リオナさん。」


 AILが電子音声で話しかけた。


「一言だけ、何か話しかけてください。音声を認識します。」


 リオナはそれに何と答えようかと考えた。

 そして、


「私は軽井沢里緒菜。孤独な科学者崩れの女です。」


 と言った。


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