第1話 エレナとAIL10000型コンピューター
高校。と言っても、ここは南條大学付属高校。
エレナは変わらぬ日常を過ごしていた。
内部進学を除いてもまぁまぁな進学率を誇り、その辺の自称進学校と言う高校よりも偏差値は高く、国公立大学へ進学する者も多いこの高校。
しかし、皆が皆、勉学に勤しんでいるかと言うと、そうではない。
羽目を外してチャラチャラする者。遊び歩く者。そうした者が半数近く居る。
エレナはと言うと、そのどちらにも属していない。
まして、友達と言う物もほぼ居ない。
「必要最低限の人付き合いが出来れば、それでよい。」
それが、エレナを操る物の教えであり、そのように教えられたエレナは、本当に、必要最低限の人付き合いしかしていなかった。なので、「私、貴方の事が気になるの。だから、付き合って。」と、女子からの軽々しい告白にも二つ返事で応じてしまった。
彼女。名前はミサと言うが、ミサというのはやはりチャラチャラする者に分類されるタイプの女だ。
そして、やけにうるさい。
一方で、エレナはと言うと物静かというより、普段の喋り方はコンピューターの機械音声のように、感情の起伏も感じられない喋り方をし、笑う事は殆どない。そればかりか、表情と言う物すらない。無表情で過ごす男だった。
傍から見れば、と言うか、誰から見ても水と油の関係で、上手く行くわけがないカップルだ。
「明日、土曜日はお祭りだねぇ!」
と、ミサはゲラゲラ笑いながら言う。
「そうだね。」
エレナは無表情。
「楽しみじゃないの?」
「あまり現実的とは言えませんね。高校3年。大学進学を控えた歳に。」
「エレナはどうせ、内部進学でしょう?私も同じだから、ヘラヘラしててOK!人生勝ち組アハハハ!」
うるさく笑うミサと別れ、自分の住まいに向かうエレナ。
家と言っても、学園の敷地の中にある小さなアパートの2階
ここが、エレナの住まいだった。
カードキーを差し込み、部屋のオートロックを解除して帰宅する。
「おかえりなさいエレナ。」
「ただいま。アイル。」
無機質な機械音声で喋るAIL10000型コンピューターの声に答えながら短い廊下を歩く。
部屋はちょうど1LDKの間取りで、キッチン、風呂、トイレ、居室と最低限の物は揃っているが、居室の中にはちょうどグランドピアノのような大きさの黒い大型コンピューターが、赤いカメラ・アイを光らせて稼働している。
これこそ、電子工学が生み出したコンピューターの中では最高の能力を持ち、人間の頭脳の殆どの働き、人間と同じ言葉を使って思想の伝達をも可能とした人工知能AIを搭載したコンピューターAIL10000。通称「アイル」である。
AIL10000型コンピューターは、現在存在するコンピューターの中で最も信頼性の高いコンピューターである。
情報処理や判断を誤ったマシンは未だ存在せず、ミスを犯さないと言う定評を得ている。
「今日の会話データ。」
と、AILを搭載したタブレット端末をAIL本体に接続する。
「相変わらず、うるさい女性ですね。ミサと言うのは。人間と言うのはここまでうるさいのですか。糸川教授とその助手たちは皆、物静かですが。」
「消防自動車。」
「えっ?」
「あれは消防自動車のサイレンのような物だ。」
「-。緊急車両の緊急走行?と言う物でしょうか?」
「そうだな。」
「サイレンは乱用しては、ただの迷惑です。」
「まったくだ。」
「ところで、今日の夕食はこのような内容です。」
ディスプレイに夕食の内容を写す。
無機質なディストピア飯だ。
AILは食事を作る事も可能だが、作れるのはディストピア飯だけだ。
「食事の時間は19時です。」
「分かった。それまでに、風呂に入り、課題を片付けるとしよう。」
「分からぬことは、私にお尋ねを。」
AILそう言って、また、静かになった。