第10話 科学実験
前日、暴行を受け、傷を負ったエレナだが、今日の実験に向かう。
今日は、大学キャンパス内にある航空実験用の滑走路を用いて、実験自動車の最高速実験だ。
「ルナ」と名付けられた実験自動車。元は2015年式のTOYOTAヴィッツで、トランク部分に小型のAIL10000型コンピューターを搭載し、これを用いて、自動運転や自立走行が可能。このAILには既に、エレナの住まいにあるAILの複製データがインストールされており、仮にエレナの住まいから離れたとしても、「ルナ」のAILがバックアップとして、エレナの住まいのAILと同じ働きが出来る。
今日の実験は、重量のあるAILを搭載した状態での最高速度を計測する。
実験が始まる前に、エレナは糸川教授に一連のAILの不穏な動きを報告する。
「ふーむ。」
と、糸川教授は首を傾げる。
「路面の轍についてのデータは更に実験を繰り返して、データを集めて行きつつ、実際にパンクさせた時の車の挙動を学ばせ、路面の轍をパンクと誤認しないようにして行かないとな。」
糸川教授は言ったが、A-13ユニットの件に関しては何とも言えない様子だ。
糸川教授が頭を抱えるのは、A-13ユニットの事だけでは無かった。
パンク誤認の前にも、AILが車の発電機から過剰電流を受け取っているという誤った警告をしている。
更に、それらの事をAILが報告する際、咳払いのような間をおいて報告している。このような事は、初めての事なのだ。
「どうする?実験を見送るか?」
と、糸川教授は言う。
「いいえ。実験の日程、開発遅延、スケジュール調整、そうした物から見て、延期はお勧めできません。」
AILが言った。
AILの言っている事は理にかなっている。
今日の実験を延期してしまうと、大学の滑走路使用のスケジュール調整や、開発スケジュール調整等、関係各所に迷惑をかける上、「ルナ」の開発遅延にも繋がりかねない。
エレナも一瞬考えたが、
「AILの言う通りですねこれに関しては。延期は適切ではありません。」
と言う。
「分かった。」
糸川教授はあまり乗り気ではない。むしろ不安だった。
だが、実験は予定通り開始された。
その最中、エレナは「何かおかしい!」と悲鳴のような声を出したと思ったら、「ルナ」が発電機から過剰電流を発生させ、進行方向上の滑走路灯等の電子機器に漏電し、それらが、光線を構成したのだ。
「エレナ!実験中止!停めろ!」
糸川教授が無線でエレナに怒鳴ったが遅かった。
「ルナ」は光に包まれ、次の瞬間には、落雷のような閃光と轟音と共に、その場から消滅したのだ。
「エレナ!」
と、糸川教授は必死になって無線で呼びかけるが、エレナは、「ルナ」ごと、AILと共に、この場所から消滅したのだ。