鋼鉄のたまご
「香川君、遂に完成したぞ」
徳村博士は、巨大な研究所の地下ラボで所員の香川ミサに告げた。
目の前に設置されている卵の様な白い装置。卵の様に白い肌をしたミサが訊く。
「博士、最近ずっと籠っていましたが、これは? 扉があるので中に一人くらい入れそうですが」
「全く笑わぬ美人」と所内でも評判のミサと「笑顔がグロい中年狸」と陰で揶揄される徳村。
「再生装置EGGだよ」
答える前に一瞬、徳村が自分の胸を見たことを不快に感じたが、ミサは表情に出さない。
「エッグ?」
「そう、Everyone's Garbage Genocide。『みんなのゴミを処分』」
徳村が、まず装置の外観で「EGG」という名前を浮かべ、適当な英単語を後から当てはめたのをミサは見抜いた。やはり表情には出さない。
「結局、コレは何が出来るのですか?」
徳村がため息をつく。
「再生装置と言っただろう? 世の中のゴミ、例えば『親に寄生し、働かない子供』、以前は『ニート』と呼ばれていたらしいが。そんなゴミみたいな子供を親にここへ送ってもらう。手段は問わない。EGGに放り込み、扉を閉める。するとEGG内部に私が開発したガスが充満する」
ミサは小学校で習った事を思い出す。「ニート」「ナマポ」等が原因でこの国は一度、経済が破綻したらしい。
「ガスにはどんな効果が?」
徳村は笑った。
「ゴミは卵になる。七日後、赤ん坊が孵る。国の運営する施設が、全うな人間に再育生する」
少し考え、ミサは返す。
「いくら博士でも、そんなガスは作れないと思いますが」
徳村は先程より嬉しそうに笑った。
「流石だな、香川君。私にもそんな物は作れない。しかし、藁にもすがる思いで親達は送って来るよ。ゴミを」
「では、そのガスとは?」
「ただの毒ガスだ。一瞬で終わる」
ミサが眉をひそめる。
「親に訴えられます」
「君は実情を知らないな。装置のトラブルで死んだと言っても彼らは悲しまない。毒ガスと知ってて、送って来るかも知れない」
今度はミサの目が険しくなる。
「殺人犯になりますよ」
「問題ない。コレの依頼主はこの国だ」
「!?」
「だから安心して私のサポートをしてほしい。手当は弾む」
ミサは、エッグの構造の理解に十五分と掛からなかった。
「流石だな、香川君」
開いたエッグの扉前で徳村が笑う。
そのヘラヘラした徳村を、正面からミサはエッグの中に蹴り入れた。扉を閉める。
内部から喚き声が漏れる。
「狂ったゴミを処分しますね」
ミサが笑った。
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