完!
ノリで作成した婚約破棄ものですが婚約破棄はしていません。
かなり乱文かつ読みにくい内容ですのでチラシ裏メモ書き程度に思っていただけますと幸いです。
「継母様とお父様がおっしゃったの。ルカがあなたを慕っているから、婚約者を交換したいって」
「……正気か?」
「正気じゃないから私が先にお知らせに来たのよ。私には思いとどまらせることはできませんでした。申し訳ありません」
暖房のきいた応接間。温かいお茶に唇を浸して冷えた身体を温める。
対面に腰かけたレーゼの婚約者はぽかんと口と目を見開き、手に持ったカップが傾いている。あと少しで中身がこぼれそうだ。
「ええと……私と君は10年婚約者としてやってきたと思うのだが、今更婚約者を変更すると?ああ、すまない」
「いえ。お気になさらず」
カップの底に手をやって水平に保つと、ジェレミーははっとしてカップをソーサーに置いた。未だに動揺しているのか、結局少しソーサーにこぼれた。
「私もあなたとは良い関係を築いていたと思っています。ただ、あなたもご存じでしょう?両親はルカの事になると常識を投げ出してしまうのです」
「ルカ嬢……ええと、君の父君の再婚相手の連れ子だったか」
「正確には父の婚外子ですわね。最近やっと貴族令嬢の振る舞いができるようになったから、公式の場に出たのですが、その時にあなたに一目ぼれしたんですって」
「なるほど…?いや、どういうことだ?いくら娘が一目ぼれしたからと言って両親が姉の婚約者を奪うことを推奨するのか?娘を思うのならたしなめるものだろう?あと私の外見は一目惚れするには不十分だと思うが」
そう言ったジェレミーは黒髪黒目の端正な顔立ちの男性だが、概ね地味でぼやっとしている。悪くはないが、突出した点がないのだ。
ジェレミーの評価は卑屈でも何でもなく、客観的に正しい。
「私もそう思います。あなたの外見は私は好ましいと思いますが、一目惚れというのは現実的ではないでしょうね。もしかしたら尋常でない黒髪黒目フェチかもしれませんが、他にも黒髪黒目の方は沢山いらっしゃると思います」
「そうだろうそうだろう」
うんうん頷いているジェレミーは割といい性格していると思う。レーゼはそういうところを好ましいと思っている。
「なので、ルカが一目惚れしたのは、『意地悪な義姉の婚約者』に一目惚れしたのでしょう。さもなくば『伯爵令息』という地位と権力と財産でしょうか?」
「なるほど。婚外子だったという立場からすれば君の立場を妬ましく思うのも仕方がないのかもしれないな」
まあよくある話だ、とジェレミーは得心がいった様子だった。恵まれない境遇にいた婚外子が正妻の子どもに憎しみを抱いたり、嫉妬したりするのは定番の人情だ。そこまでは分かるが、それ以上に両親がポンコツだった。
「私としては、ルカや継母様、お父様に思うところはないのです。お母様が亡くなって、きちんと喪に服し、期間を置いてから我が家に迎え入れてくださったのですから。ルカがお父様の実の娘だということにもこだわりはありません。そういうこともあるのでしょう」
「君は驚くほど理性的だな。理想的だがやや肝が冷える」
「あら、結婚前にもう愛人を迎える予定がおありで?」
「まさか」
困った顔をしてジェレミーは首を振った。レーゼは理想てきな貴族令嬢であり、感情を完全に制御することができる。というのは建前で、基本的に感情の動きが薄く、概ねのことに感慨がないだけなのだが。
「ルカが私に敵愾心を抱いているのは分かっていました。継母もですね。けれど、お父様はそれをたしなめてくださると考えていたのは、いささか買い被りすぎだったようです」
わが父ながら愚かなこと、と頬に手を当てて顔を傾ける。
「止めてくれそうなお兄様は海外ですし、放っておくとすぐにでもアジェ伯爵に婚約者の変更の申し入れをしそうだったので、せめて私が先にお知らせしようと思ったのですわ」
「君の父君は、君との婚約破棄の理由に何を考えているのだろうか?」
「そうですわね……色々理由をつけることはできると思いますけれど、『ルカがあなたを見初めたからぜひうちの娘をどうぞ。結納金は弾みます』といった所かしら。『愛のない婚姻より、愛情あふれる結婚生活のほうが素晴らしいでしょう』とか言いそうです」
ジェレミーは額に手を当てて天井を見上げた。
「……君の、君の父君はそんなに愚かな人だっただろうか。君の家族を悪く言うようで大変心苦しいのだが」
「あら、私がそういう感傷を持たないことぐらいご存じでしょうに」
「人間の礼儀を否定しないでくれ」
「あらあら」
「それで…もし君の義妹と私が婚約をした際の風聞について何か考えているのだろうか……」
「心優しい女の子をいじめる悪い義姉はやっつけられて、勇敢な伯爵に見初められ、幸せな結婚をしました、というストーリーを広めるのではないかしら?」
「結局、理由なんていくらでも捏造することができますわ。私の素行が悪かったことにすればよろしい。いくらでも醜聞は作れます。家族が敵なら簡単なことです。
だから、私はあなたにお別れを言いに来たのです、ジェレミー。
あなたがルカと婚約をしようとしなかろうと、両親はルカのために私を陥れる噂を広めるでしょう。私は社交界の話しの種になり、貴族界にはいられません。そうなればあなたとの婚約の維持も難しくなります。
婚約破棄となれば私の行く末はどうなるかしら?」
ジェレミーは渋い顔でこちらのいうことを聞いている。
「良くて修道院、悪くて豪商の後妻ですわね。しかも私の祖父の年齢かしら」
「それで君は私との婚約を破棄してどこに行くんだ」
「ひとまず世界一周旅行にでも行こうかしら。ご存じ?今は豪華客船のクルーズが流行っているんですって。とっても楽しみだわ」
「悲壮感が消えたな」
ジェレミーは下げていた眉を急に持ち上げてにっこり微笑んだ。いたずらっぽい微笑みが眼鏡の下にきらめいている。
「さっきから気になっていたのだがその大きな鞄はその為の荷物か?」
「ええ。私名義の銀行口座を解約して現金を引き出してきましたの。所詮未成年女性の財産なんて父が使用したいといえば銀行の匿名性なんてありませんわ。なのですっぱり口座ごと亡くしてしまおうと思って」
横に置いた大きな四角い鞄には現金と宝飾品がつまっている。
現金をよく使用する貨幣で下せばかなりの重量になるが、こういう時のために貴族の商取引でしか使用しないような貨幣が存在するのでなんとかレーゼにも持ち歩ける重量におさまってくれている。
「それで、どういう身分で乗船するんだ?まさかそのままの名前で乗れば追手がかかるだろう?」
「偽名も考えたんですが、2等客室以上に乗りたい以上、貴族位が必要でした。流石に貴族位の準備は時間が足りなくて本名にしますわ。どうせ海上から連絡なんて滅多なことではできませんし、まさか家出娘が豪華客船に乗っているなんて思いもしないでしょうから」
「よく考えたな……。それでその豪華客船はどのルートを行くんだ?」
「王都を南下して国内最大の貿易都市リファート、そこから海洋国家エメラの都市を2カ所。白い砂浜が大変綺麗だそうですって。東に行ってカムレの花の都、お兄様が留学している学問都市サロヴルーメ、他にもかなりいろいろ見て回れて、どこかの都市で下船することもできるみたいです。大体1年かけて王都に戻ってくるようですわ」
「私たちの新婚旅行より楽しそうな旅程を語るのは勘弁してくれないか?」
「私たちの新婚旅行は国内2週間の予定でしたものね……しかもあなたのご両親の行った所でしたからなんというか、ちょっと風情がある場所ですわ」
「それは直球にもはや寂れていると言ってくれ。両親は自分の経験が最高だと信じて疑わないんだ」
「国外に行くのは初めてなので、とても楽しみなのです。週末には出港するそうですから、王都で準備をすれば時間ギリギリで、最後の挨拶に来たんです」
「私だって国外には行ったことがないんだ。そんな…なんて羨ましい……!!」
「今夜にも王都に行って、ドレスの準備をしないといけませんので、もうお暇しますわね。ジェレミー、今までありがとうございました。それではごきげんよう」
「ままままってくれ!僕も行く!」
「まあ、ジェレミー、よろしいんですの?これからあなたのご両親の所に婚約者変更の猛丑入れが来て、受けようと受けざると私の醜聞は広まります。なので結局スキャンダルから逃れるために婚約破棄をするしかなくなりますのに、私と豪華客船でうきうきクルーズなんて」
「君だけにいい思いをさせてたまるか。誰と結婚しようと新婚旅行は国内寂れスポット2週間になるんだ。こんな良い機会は逃がせないだろう」
レーゼはにっこり微笑んだ。
「では私は先に王都に向かって準備をしておきますわ。あなたもご準備なさったらすぐにいらしてくださいませ」
私たちの世界一周はこれからだ!!
完
気が向いたら修正等します。
多分続きません
お読みいただきありがとうございました