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上洛青春物語   作者: 幸京
4/4

2003年春〜2004年冬 大学4回生編

「あー、もう、ここでいいわ」

郵送での内定案内を受け取ると、僕はそう言ってベッドに倒れ込む。

7月、これで就職活動が終わると思い、ほっとした。

ダメもとで、映画配給会社や出版社にエントリーシートを送るも、当然落ちた。

運よくエントリーシートを突破しても、2次試験のSPI試験で落とされた。

同時進行で就職フェアにも行き、特に興味もなかった業種でもとにかく受けてとにかく落ちた。

周囲が内定をもらっていくのに焦り、僕はとにかく早く楽になりたかった。

だから初めて内定が出た企業に就職を決めた。

既に社会人として働いていた谷さんからは、まだ時間はあるのだから他の企業も受けてみればどうか?と言われたが、一生のことなのに僕はもう疲れて、就活を続ける気力がなかったのだ。そんな僕を横目に、彼女は不景気の中、公務員試験を突破した。専門学校にも通い努力していたから、合格の報告を聞いた時は本当に嬉しかったが、残された学生生活のなか、更に資格取得のため勉強に励む彼女の気持ちが、僕には向いていないことを感じ始めていた。

僕は既に卒業は決まっていたから、その後はとにかくダラダラと過ごした。たくさんの映画をみて、多くの本を読み、ひたすら寝た。なぜなら、もうこんな甘美な日々は訪れないと分かっていたから。モラトリアムというにはあまりに怠惰な青春の終わりがすぐそこにきていた。



「バキバキッ」

3月、学生アパートを引き上げるその日、付属の木製ベッドの上に立ち、ヒビをいれてしまった。

この部屋に引っ越してきた四年前、見知らぬ誰かを怯えさせたことを思い出し、

この部屋を引き上げる今日、ベッドを壊したことに苦笑したが、幸いなことに敷金はほぼ返ってきた。


あれから20年、彼女とは卒業半年後に別れた。何でも好きな人が出来たらしい。

僕は友人に紹介された2歳年下の女性と30歳の時に結婚して、2人の子供に恵まれた。

仕事では唯一内定が出たサービス残業が当たり前の、

法律により、ようやく有給が使えるようになったブラック企業に今なお勤めている。

入社当時、30人いた同期は5人になっていた。

関西方面に勤めているが、仕事でなければ京都に行くことはもうない。

あの日々。

数えきれないほど麻雀をやった守城さん、谷さん、岡崎。

誰よりも一緒に飲みに行き、共に吐きにはいた島元。

一緒にフットサルやバスケをした木下。

初めての彼女。

映画を共に観たサークルメンバー、あかり先輩。

ゲームを教えてくれた吉村君。

もう誰とも連絡をとっていなければ連絡もこない、SNSをやるつもりもない。

大学の映画鑑賞サークル、よく行った居酒屋、パチンコ屋、カラオケ屋は調べればもうなくなっていた。

今ではもう懐かしむことも、なくなりつつある。


それでも間違いなくそこにあった、だから言える、僕の唯一の青春時代。


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