異世界転移し放題が何よりも役に立ちます
今の僕は間違いなく人生で一番緊張している。
それもそのはず僕は現在進行形で防衛省の建物の中にいるからだ。しかも呼び出された場所はいかにもお偉いさんがいそうな場所だ。
これで僕が三十歳とかならばいくらか緊張しないでも済んだかもしれないが残念ながら僕は十九歳である。
そもそも今までの社会の仕組みで十九歳の青年がこのような場所に呼ばれるという事例があるわけないので緊張するというのは当たり前のことだろう。
ではなぜこのような前代未聞のような事例が起こっているのかそれは一年前にさかのぼる。
一年前、僕は高校三年生であった。
高校三年生の時期と言ったら受験が迫っている頃であり周りの空気が重い頃であった。もちろん僕も受験生としていそしんでいた。
そんな受験生であった時期の六月二十二日に事件は起きる。
四時間目の開始のチャイムが鳴り皆がもうひと頑張りと気合を入れていた頃、妙に鳥の音でうるさかったのである。
いくら受験生とは言えど突然鳥の鳴き声がうるさくなったら外を見たくなる。
見るか見ないか迷ったものの誘惑に負けて受験生であるということも忘れたかのように授業中に大胆に窓際を覗いてみたら衝撃の光景がそこにはあった。
それは今まで誰も見たことがないような真っ赤に染まった太陽、不自然に着色された謎の鳥たちの大群、おまけつきに見えてはいけない天の川。
このような景色は今までに見たこともないしこれから見ることもないだろう。
外の異変に段々ほかの生徒たちも気が付いたのか授業も自然的に中断となる。
生徒のみんなが外の景色に夢中になっていたところ突然強い光が目に届く。
そのあとの記憶は残念ながらない。
目を覚ますとそこは病院であった。
周りには一人の男がいることを除けば何もなかった。
僕が目を覚ましたことを近くの男は確認したようで僕に話しかけてきた。
「突然知らない人間がいたことで混乱を招いてしまっているかもしれないが私は警察庁捜査第一課所属の金森真司というものだ」
捜査第一課所属というところで僕は嫌な予感がした。
だって捜査第一課とかよくドラマで見るやつやん。
「捜査第一課ということは誰か死人でも出たんですか」
思い切って質問してみた。最後に残っていた記憶が正しければ僕のクラスの人間は幻覚を見ていたと思われる。だってあのような異変は実際に起きることなんて考えられなくて幻覚と考えるのが現実的である。
幻想であるとすればおおよそあの日に教室内が毒ガスにまみれていて多くの人が重症となり奇跡的に僕は助かったというシナリオが一番考えられる。
そんな想定をしていた僕だが刑事の回答は思っていたよりもかけ離れていて非現実的であった。
「君の想定はとても良いものだが現実で起きたものはもっとファンタジーだよ。なんせ高校三年生の全員が消えたのだからね。しかも君の通っている芝原高校だけではなくて日本中すべての学校が対象ときた」
金森刑事の言っていることがさっぱり分からない。
「君からしたら当時の事件で騒がれていたころは眠りについていたし理解できないのも分かるが現実で起きてしまったことは変えようがない」
僕は必死に反論する。
「そんな訳ないでしょ。何を言っているのかさっぱり分かりませんがもし日本中の高三が消えたのならば僕はなぜこの病院にいるのですか。矛盾しています」
「君が存在しているのは例外だ。そうしかもその例外は高橋圭の一人だけだ」
信じられない。こんなことがあっていいのか。いや良くない。これは僕をだまそうとしているだけだ。そうに違いない。
そう心に言い聞かせていると金森刑事は大量の新聞を持ってきた。
そして、「全く信用されていないようだからお前の目で直接確かめろ」と言ってきた。
毎晩新聞《日本の高校三年生が全員突然消える》
朝山新聞《高校三年生すべてが行方不明》
地域新聞《日本の高三生が同時に行方不明》
大日新聞《神隠しは本当に存在した!日本の高校三年生全員消える》……
どの新聞を見ても似たようなことばかり書いてある。
認めたくはないがどうやら金森刑事の言っていることは本当なことであるようだ。
「どうだ信じたか。俺だって認めたくはないが起きてしまったことは変えることができない。信じるしかないんだ」
その後は精密検査や大学教授による研究体にされていたために長い間親とは会うことができなかった。
そのため長いときをえてでの再開は反抗期による親との微妙な関係は一切機能せずお互いが涙を流すとても感動できる再開となった。
日本どころが世界をも恐怖に陥れたあの事件が起きてから早一年。僕は防衛省のお偉いさんに呼ばれていた。
緊張で足の震えが止まらなっかったが何とか防衛省の建物にたどり着くことができた。
「こちらにどうぞ」
呼ばれた場所は副防衛大臣室と書かれた部屋の前でいかにもこれから会う人が偉いのかが分かる。
会ったらどのように挨拶しようか、どうすれば緊張せずに話せるのかとかを考えるうちに「お入りください」と言われた。
足がぶるぶるしながらも何とか足を進めた先に一人の男が堂々と待っていた。
「やあ君が噂の高橋圭くんかね。初めまして。私は副防衛大臣の佐藤勉と申します。」
副防衛大臣の佐藤勉という男は僕が想像していた老人感があまりなくむしろ若々しっかた。
「初めまして。私は高橋圭と申します。これからもよろしくお願いいたします」
こんな返し方でいいのかとは思いつつきちんと喋れたことに少し安心する。
秘書の方が「どうぞお座りください」と言って、僕が座ったところでいきなり会話は開始する。
「早速でもうしわけないのだが君には行方不明となった日本人の保護を頼みたいのだ」
「はい?」
意味が分からない。
行方不明になった人たちの居場所は未だに国が不明と公表しいるのにか。
とにかく見つけるのが早いマスコミだってお手上げ状態だぞ。
それに例え見つかったとしてもその仕事は国の仕事で僕がどうこうするものではないではないか。
僕は全くこの発言の意味が分からなかった。
訳が分からず混乱していると「こちらの書類を読んだら分かる」と一つの書類が渡された。
【高校三年生一斉行方不明事件の真実について】
二〇二二年六月二十二日の昼前に高校三年生が全て消えた事件で唯一生き残っている人物の発言によれば当日は幻覚が見えていたという。しかし興味深いことに同じ教室にいた教師は幻覚なんて見えなっかたと発言している。
警察はこの一人の学生の発言の真偽を確かめるため全国の学校に事情聴取をするがどの学校も見えなかったと発言していたため学生の幻覚は体調不良によるものだとかたずけられた。
しかし突然消えるなどというありえないことは信じられなっかた私はまず唯一の生き残りの学生の身体検査をする。するととんでもないものを発見する。
それは彼の心臓の音がモールス信号になっていたのだ。
内容は「異世界に干渉できる唯一の個体」であった。
それから私は彼の人体をもとに研究して以上の五つが分かった。
一、行方不明者はこの世界とは全く違う異世界に転移された。
二、転移は仮名「魔法」によって転移させられた。
三、唯一生き残った学生は魔法に耐性があったから生き残れた。
四、生き残りの学生は魔法の耐性力だけではなくて異世界と日本を行き来することができる。
五、また彼次第で他人も異世界と日本を行き来させることができる。
なおこれらの五つ以外にも推測できることはあるが可能性がそこまで高くないので今回は省く。
以下の五つのことについての詳細は論文にまとめてある。
「つまりもしこの書類が全て真実だとしたら間違いなく異世界に行方不明者はいるということになる。だから私が異世界と日本を行き来して行方不明者を保護しろとのことですか」
「まあ簡単に言うとそういうことだ」
ああ頭が痛い。今までの緊張が全て吹っ飛んだ。なぜこんな馬鹿げたことを信じろと。
そんなファンタジーなことがないなんてどんな馬鹿でも分かるはずだ。常識的に考えても考えなくてもこれは嘘に決まっているだろう。
まあ本当だろうが嘘だろうがその教授の頭がぶっ飛んでいることには違いない。
でも今回の事件自体がファンタジーだし、可能性を全部否定することは出来ない。むしろこれくらいの方が案外真実に近いのかもしれない。
「もしこれが本当だとしてもなぜ僕がしなければいけないのですか。資料を読む限り僕の転移能力は他人に渡せるとあるので私が渡せば終わりの話では」
「ああそれについてだが、まず転移するときには教授が作った転移装置を使わないと転移できない。そしてその転移装置の核となるのが君らしい。つまり核である君がいないと他人を転移させることは不可能ということだ」
僕自身の人権はとか安全性はとか聞きたいことが山ほどあるがここであれこれ言っても何も変化がないだけだ。
転移させられた人を助けたいという強い気持ちがあの日以来ずっと持ち続けているこの僕にこの任務は断れなさそうだ。
「分かりました。その任務、受けます」
「本当かね。ありがとう。心から感謝する」
副防衛大臣はかなりの上機嫌だった。いくら行方不明者のためとはいえどもまさか僕がこの危険な任務を引き受けてくれるとは思っていなかったのだろう。
「そうと決まったらさっそく異世界に転移をして一刻も早く保護活動をしてほしいところだが実は教授によるとまだ肝心の転移装置ができていないらしい。だがら完成するまでの間待っておいてほしい」
なるほど今日の呼び出しはこの感じだと許可だけを取りに来たようだ。それにしてもまだ装置が完了していないのにこれとは気が早すぎるのではないか。
まあどのみち世界を変えるこの任務を僕が受けるという事実は変わらない。