97.逆転の一手
※以前執筆していた作品の112話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「くっ・・・さすがに竜人の一撃は重いですね・・・。」
人間とは速さも重さも桁違いの一撃が少しずつ体力を削っていく。このまま打ち合いが続けば私の方がどんどん不利になっていく。身体強化に増力を掛け合わせてなお力負けしてしまい攻撃を受け止めることが出来ないため、大きく動いて躱さなければならないのが大変だった。
加えてこの足元に広がる罠地帯である。この竜人たちは場所を正確に把握しているようで、その立ち回りなどから多少の位置は予測できるとしても、どうしても頭の容量をそちらに取られてしまう。せめて魔法が使えれば結界で足場を作って無効化することもできるのだが・・・。
とにかく、グラさんを待つしかない。相変わらずいつ消えたのか分からないが、この状況で遊んでいる訳がない。恐らくはこの結界の破壊に向かっているのだろうが、問題はグラさんの力だけで結界を張っている魔法具を破壊できるのかどうかだ。
結界魔法を張る魔法具はとにかく堅い。魔法的にも物理的にも。それほどの堅さがなければ当てにならないのだから当然かもしれないが、火力不足が一番の懸念点である彼にそれができるのかどうか・・・。
「くそっ・・・当然と言えば当然か・・・ここに守護兵がいるのは・・・。」
結界の大きさは把握できたのでその中心地へと向かい、目の前におよそ魔法具とは思えないほどの大きさの装置を発見したまではいいのだが、それを破壊しようとした矢先、敵の攻撃を受けてしまった。
「お前・・・隠密の使い手だな?これを見つけるなんて大したもんだ。だが、大して強くはないようだ。」
黒装束を身に纏い、闇夜ならともかく昼間の平原ではかなり目立つであろう姿の男は、どういう訳か先ほどから魔法が使えるようで苦無を飛ばしてきたり糸で首を刎ねようと狙ってきたりしている。
それに、こちらの攻撃も通らない。といっても、魔法攻撃が出来ないので短剣で切り裂こうとしているだけなのだが、それでも世界屈指の切れ味を持っているであろうこのリリム特製の短剣が効かないのは少々違和感を覚える。
「ふっ・・・何を考えたって無駄だ。貴様は俺に勝てない。さっさと死んだ方が楽だぞ。互いになぁ!!」
突然力強く踏み込んできたため反応が一瞬遅れてしまい、剛腕から繰り出される一撃をまともに喰らってしまいかなりの距離を殴り飛ばされた。
「げほっ・・・ぐ・・・ごほっ・・・」
身体強化をかけ、硬化した短剣を間に挟み後ろへ飛んだことで何とか体を貫かれるのは防いだが、口から吐き出され流れ続ける血の量が尋常じゃない。体は寒気を覚え震えており、霞む視界の中で奴がゆっくりと近づいてくるのが見える・・・。
「なるほど、評価を改めよう。人間にしては存外やるな。良き才を潰すのは忍びないが、恨まんでくれ。これも仕事だからな。」
そうして左胸の辺りに一瞬激痛が走ったところで意識は闇の中へと消えていった。
「ルル様・・・ルル様の力でどうにかできないんですか・・・?」
泣きついてくるアルルはちょっといけない欲望に駆られそうなくらい可愛らしいけど、残念ながら現状を打破する術は今のところ持ち合わせていない。
「結界が破壊されるか、結界の外に連れ出せればいいのだけれど・・・ちょっと試してみようかしら。」
体外に放出する魔法は使えないが、自身の体内に宿る魔力だけで解決できるのならば多少は使える。身体強化や観察の魔法などなら問題なく使えるので私が戦闘に参加してもたぶん大丈夫だろう。
反射神経や魔法技術はリリムより上なのだが、基本的な身体能力が大きく劣ってしまっているので、こういった接近戦は基本リリムに任せていたのだが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。とりあえず罠を避けつつリリムに近づいて作戦を伝えておく。
「なるほど・・・それなら一体ずつがいいでしょう。二体を引きつけます。」
リリムの返答に小さく頷き、二人で左右に大きく分かれる。こうすればおそらく二人と一人に分かれて私たちを追ってくるはず。そして一人側の方で伝えた策を打つ。
「ひっ!?ひいいいいいいいい!!うわああああああああああ!!!!」
「あ、あら?」
「おや?」
突然聞こえてきた悲鳴の方を確認してみると、アルルが一体の陸竜に追われて逃げ回っているのが見えた。これは迂闊だったかもしれない。こっちは三人いるのだから三手に分かれれば一人ずつ追ってくるのも道理かもしれない。
「アルル!とにかく逃げて!頑張って!」
聞こえたか分からない激励を飛ばし作戦の実行に移す。何はともあれこれで私の方もリリムの方も一人ずつになった。これならうまくいけば二人一遍に倒せるかもしれない。
「えぇいちょこまかと小賢しい!そんな攻撃など当たるものか!」
彼らが竜の息吹を使わずにひたすら斬撃での攻撃を繰り返しているのは、息吹を使う際一瞬の隙が出来るのを嫌ってだろうか。確かに私たちならその一瞬を見逃さない・・・というより、リリムもさっきからそれを狙ったような立ち回りを繰り返していた。
ともかく攻撃手段が限られるのならそれは僥倖だ。リリムに作って貰った斧に業熱の魔法を付与しつつ、陸竜の周りをぐるぐる回りながら斧を振り回す。
業熱という魔法は攻撃魔法ではなく、実験や蒸し風呂を作る際に指定した物質の温度を高めるだけの魔法なのだが、その温度はものすごく高くすることもできる。当然そんなものを振り回していれば辺りは熱気に包まれることになるのだが、ただそれだけだ。
「竜麟はこの程度の暑さなど問題にならない!残念だったな!」
「そうね、でも、私の狙いはこれなのよ!」
そう宣言して斧に付与している魔法を切り替える。業熱魔法の良いところは物質の温度自体は魔法を切った瞬間に元に戻る所だ。そして、今度は豪冷の魔法を、業熱とは真逆に物質の温度を絶対零度近くまで下げる魔法を付与し陸竜の足元で斧を振るった。
そして、熱せられた空気は上空へと向かい、下へ冷たい空気が流れ込み押し上げることで生まれる上昇気流は、強く、激しい竜巻となって私たちを上空へと吹き飛ばした。
「き、貴様ぁ・・・!」
「ふふっうまくいったわ。それじゃ、おやすみなさい。」
結界の外に出てしまえば普段通りに魔法が使える。この程度の竜麟を消し飛ばすことなど造作もない。
リリムの方も上手くいったようで、私より低い位置ではあるけど無事に竜麟の民を倒すことが出来たようだ。
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