94.情報調査
※以前執筆していた作品の109話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「ダメだ!首都までの道のりは完全に封鎖されちまってるんだ!アガレスが攻め込んできたらおとなしく捕まっとけ!」
シトリの傭兵所は食堂も兼ねているらしく、その一角に座り喧騒の様子を伺ってみる。話を纏めると舗装された道中はアガレス軍を迎撃するための罠だらけになっており、森の中を抜けて首都まで行くしかないのだがその森が問題らしい。
「ウァレフォルの狼戦士たち・・・まさかこっちまで来ているなんて・・・。」
「森は彼らの主戦場。策も無しに正面から当たれば、よほどの人たちでもない限り一方的にやられるだけですね。」
狼の血を引くウァレフォルの戦士軍が森の防衛に当たっているらしく、侵入者を手当たり次第殲滅しているそうだ。そのため現在はこの町から先が殆ど断絶されているに等しい状態になっている。
東から海を経由して首都へと行く方法も無いわけではないが、港町がシトリ教国の首都より南側にないらしく、行くとすればアガレス王国へと入らなければならい。旅の商人だけならまだしも、戦時中に敵国から入ってこようとする傭兵を通すほどアガレス王国は甘くない。
「森を抜けて首都へと向かうのはリリム様たちでも厳しいですか?」
単に戦闘能力というだけなら問題にはならない。だが、現在アガレス王国軍は国境沿いで軍を止めているということになっている。森を抜けるのならば当然私たちの存在・正体をバラすことになるため隠密行動の意味をなさなくなる。
シトリ教国の軍勢は転移魔法を使える者がいるため、私たちが攻めてきていると分かった時点で転移魔法を使いバエル王国側へ、ノエルの軍と戦っている軍勢と合流するだろう。現状でギリギリ拮抗している状態なのだから、そんなことをされてしまえばバエル王国側から王都までたどり着かれてしまう。
「エリアスの結界が簡単に破られるとも、そもそもノエルが敗北するとも思えませんが・・・余計な負荷をかけるべきではありません。」
私たちがするべきことは、シトリ教国の首都、王城へと潜入しシトリ教国軍を支えている"何か"を破壊すること。それは大きな魔法石かもしれないし、魔法陣かもしれない。あるいは人か、建物か・・・とにかく民間人の被害を少なくし戦争を終わらせなければならない。
「軍人はあれだけ倒してきてるのに、民間人の被害は少なくするんですか?」
「私たちの目的は戦争を終わらせることです。国を滅ぼすことではありません。軍事力は削らなければ戦争は終わりませんから仕方ないとして、民間人は殺す必要がありませんから。」
"なるほど"と納得した様子のアルルを再び肩に乗せ傭兵所を後にする。これ以上長居しても新たな情報は手に入らなそうだし、そろそろ戻らなければ明日以降の策を考える時間が無くなってしまう。
「あの・・・も、もしルル様とグラ様が・・・そ、その・・・ま、まだしていたらどうするんですか?」
「その時は参加します。アルルも、経験が無いようですから手ほどきをしてあげますよ。」
顔を真っ赤にして俯き首を振り続けるアルルが落ちないように気を付けつつ、静かに、迅速に宿へと戻った。
「ふむ・・・どうやら間に合わなかったようですが・・・二人とも疲れ果てているのか寝てますね。」
ベッドの上で裸で抱き合いながら寝息を立てている二人を起こさないように静かに近づいてみる。姉様はともかく、グラさんがここまで起きないのは珍しいかもしれない。よほど体力を失っているのだろう。
「あわわ・・・は、はだ・・・か・・・」
思わず元のサイズに戻ってしまったアルルを手招いて、姉様の下腹部に触れてみる。まだ少し湿っておりさらには白い液体が垂れてきている。
「おぉ、これが殿方の・・・アルル、見てください。なかなか扇情的な光景ですよ。」
「ふぇぇ・・・リリム様ぁ・・・起きちゃいますよぉ・・・。」
姉様は一度寝ると基本的に六時間は絶対に起きない。その絶対的な強さと呪いによる不死身の体が"警戒"という二文字を消し飛ばしている。そのためほぼ起きることはない。
グラさんは逆にどんな時でも周囲警戒を怠らない人間だが、先の戦いの怪我と、薬との格闘と、姉様との情事で完全に体力を使い果たしたのだろう。恐らくこちらも暫く起きることはない。
「ふむ・・・殿方の裸を見るのは初めてですね。これが、噂の・・・」
「え!?リリム様って・・・その・・・」
言いたいことは分かる。これだけ長生きしていて初めてだと言われたらそういう反応になるだろう。私も昔愛し合った殿方はいましたが、口づけすらせずに終わりを迎え、それ以降はシール君に会うまで男性恐怖症に陥っていたのですから。
「ですが知識は多くの文献を読んできていますから、姉様よりもあるかもしれません。口に咥えて舐めることで大きくなるのですよ。やってみましょ・・・」
グラさんの下半身に顔を近づけたところで頬を何かが掠めていったのを感じた。おそらく私の頬は今切れてしまっているだろう。まぁ、呪いで元に戻るのであまり気にしませんが・・・。
「・・・おかえり。悪いねこんな格好で・・・。それで、何をしようとしていたんだい?」
「せ、生態調査をしようかと・・・。まさか起きるとは思ってませんでした。」
素早く身を引き彼の服を取ってあげる。ついでに濡れタオルも渡しておく。気怠そうに受け取って体を拭き、服を着ながら話を続けてきた。
「まぁこれでも密偵だからね。むしろここまで近寄られてしまったことを恥じるべきだろうか。」
「恥を覚えるのはそこだけなのですか・・・。」
思わず突っ込んでしまったアルルの言葉に、一瞬だが動揺したようにも見える。確かにいかな理由があろうと密偵がここまで近寄られてしまっては・・・もし万が一私が刺客だったら殺されているところだ。
「そこは反省するよ・・・。それで、何か情報はつかめたのかい?」
水を飲みながらこちらに問いかけてくるグラさんに少しばかり驚いてしまった。私たちは買い物に出るとしか伝えていないというのに、どうして何か情報を持っていることが判ったのだろうか。
「んー・・・まぁそういう顔をしていたから・・・かな?人の表情や仕草から何を考えているのか見抜けなきゃ密偵なんて務まらないからね。」
どうやらグラさんが思い描いている密偵と、私が知っている密偵とではその能力にものすごい格差があるようだ。本当に、冗談抜きで世界一優秀な密偵なのではないだろうか・・・?
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