93.苦い思い出
※以前執筆していた作品の108話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「さて、それじゃグラ、服を脱いで。」
町の宿へ着くなり服を脱ぐようルルに言われ、一体何をするのかとちょっと期待してみたりもしたが、やはりというか当然というか、右肩の治療を改めて行うようだ。
肩の痛みは少しずつ治まってきてはいるものの、未だに強い痛みを伴っており、ルルの指が傷口に触れる度にその刺激に顔を歪ませてしまう。
「ん~・・・やっぱりこの反転式を消すのは難しいわね・・・。下手にいじるよりかは自然治癒に任せてしまった方がいいかもしれないわ。」
そもそも反転式は消えない毒のようなもので、一切の回復魔法を受け付けさせないどころか逆に体を傷つけるものに性質を変えてしまうらしく、その治療法は専用の設備を用いて数週間の時間を掛ける必要があるとのことだ。
ただ、反応を示すのはあくまで体を癒す回復魔法だけなので、麻痺などの状態異常を治す治癒魔法などは使えるし、元々持っている自然治癒力を高めたりすることで受けた傷を完治させることは出来る。
「と、いうことで、こちらがその治癒力を高める薬です。さあ、飲んでください。」
リリムが鼻をつまみながら差し出してきた薬は、濃い緑色のドロドロとした液体で、治癒力を高めるどころか口にしたら死んでしまうんじゃないかと思える程の異臭をはなっている。
「グラ様はすごいですねーこれを飲むなんて。私だったら痛いのを数か月でも我慢するほうがマシだと思っちゃいます。」
アルルが呑気な声でそんなことを言うが、まだ飲むと決めたわけじゃない。そもそも戦闘要員ではない僕が右肩を急いで治す理由なんてないはずだ・・・。
「だからって、そんな肩の状態だといざって時に困るでしょ?」
「いや、だからってこれは・・・。」
一応リリムから湯呑みを受け取ってみたものの、これを飲むどころか顔に近づける勇気すら湧かない・・・。というか、仮りている宿でこんなものを取り出して臭いが壁などに染み込んでしまったら別途料金を取られるんじゃないだろうか・・・。
「はぁ、しょうがないわね。グラ湯呑みを貸して。」
ルルが手を差し出してきたので喜んで湯呑みを渡すと、なんと中に入っている薬を口に含みだした。そして僕に近づいてきたかと思うと顔をがっちり固定され口づけをされる。
「わぁ!ルル様大胆です!」
「んんんんんー!?んんんんー!?!?!?」
ルルの口から入ってきた薬はそのまま僕の体の中へと流れ込んでいき、抵抗しようにもルルがしっかりと顔を抑え込んでいるせいで逃げられず、舌を絡ませてきているせいで口を閉じたり防いだりすることもできず体をバタつかせるのが精一杯だった。
「っぷは!これで半分ね。はい、あと半分いくわよ!」
そういってまた薬を口に含んで近づいてきたので、涙目になりながら逃げだそうとしたのだが、いつのまにかリリムがしっかりと僕を抑え込んできているせいで体を動かすことが出来ず、再びルルの口づけを受け入れざるを得なくなってしまった。
「・・・こんなに嬉しくない恋人からのキスが果たして他にあるのだろうか・・・?」
胃の中のものを全部吐き出しそうになるのを必死に抑え、横になりながら誰に言うでもなくボヤく。薬の中には痛み止めの成分も入っていたらしく、肩の痛みは少しずつ治まってきている。それになんだか体がポカポカとしてきている。
「新陳代謝を高めているんですもの。体も熱くなってくるわよ。」
ルルがベッドに腰を掛けて本を読みながら話してくれる。リリムとアルルは別の部屋を借りることが出来たのでそちらに行っているらしい。あまり離れすぎると僕の隠密魔法の圏外に出てしまうので行動は慎重にとだけ伝えてあるが、さっそく宿の外へ買い出しに行ったらしい。変装はしているから多少は誤魔化せるかもしれないがあまり危険なことはしないでほしいものだ。
「ま、僕が心配してもしょうがないか。リリムが付いている訳だし、リリムがどうにかしてくれるか。」
「そうね、グラほどじゃないけど一応隠密魔法も使えるし、あの二人なら大丈夫よ。それじゃ・・・」
そういってルルが僕のベッドに潜り込んでくる。薬を無理やり飲ませたお詫びということらしく、今度は甘いひと時を過ごすことが出来そうだ。
「さて、買い出しと言っても特に必要な物があるわけではないので、適当に見て回りましょう。」
手のひらに乗る程度の大きさに小さくなって肩に乗っているアルルにだけ聞こえるように声を発する。日も暮れており辺りは静かになってきているため音の方角と到達距離を調整する魔法を使用して周囲の人に聞こえないようにする。私もアルルも念話を起動することが出来ないためこのような方法をとっている。
「必要なものがないのにどうして買い出しに行こうなんて言い出したんですか?」
アルルが首を傾げながら質問を投げかけてくる。ふらふらと適当に散策するのに明確な理由は必要ないとは思うが、あえて挙げるとすれば隣の部屋にいる二人があまり気を遣うことなく過ごせるようにするためだろうか。
幸いにして宿の角部屋を借りることが出来たため、その隣の部屋を私たちの部屋として借り入れ、多少の声が響いても大丈夫なようにしてある。いいところの宿は部屋と部屋の間の壁が厚く少々の大声を出しても平気だが、安物の宿でそんなことをしてしまったら非常に迷惑な行為となってしまう。
「なるほど・・・ん?恋人の二人が・・・大声を出す・・・?あっ・・・」
アルルも私の意図に気が付いたようで、顔を赤らめている。どうやらその辺りに関しては初心なようで、ゴニョゴニョと何かをつぶやいているがそれを聞き取ることは出来なかった。
「まぁ、そういうことです。なので適当に散策を・・・おや?」
通りにあった傭兵所らしき所に人だかりが出来ているのを見かけたため、少しばかり近づいて様子を伺ってみることにする。もちろんこちらの正体がバレてしまうと面倒なことになるので気づかれないように話声が聞こえる位置まで進んでみた。どうやら次の町までの道中で何か問題が起きたようだ。
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