92.怨霊剣士討伐
※以前執筆していた作品の107話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「ひいいいいい!!こ、こっちにこないでえええええええ!!!」
「アルル!・・・!くそっ!」
正体不明の敵はこちらの攻撃は物理的な物も魔法も一切効いている様子もなく、さらには僕の隠密魔法まで完全に見破られているらしく、一体はアルルを、一体は僕を、そして、一番大きい剣を纏っている者がリリムを狙っている。
せめて右肩さえ治癒出来ればもう少し耐えることは出来るのだが、出血が止まっただけの右肩は満足に動かすことも出来ず、痛みと焦りで汗が止まらなくなっている。
「姉様!まだですか!」
「あと30秒!」
ルルが対抗策を練り上げ、どうにかこの状況を打破できそうではあるが、そのわずかな時間すら持つか分からないほどこいつらは強敵であった。普通の人間ならば剣を振ればどれほどの筋力・技術を持っていようと二撃目はわずかに間があくのだが、こいつらはそういった慣性のようなものをまるで無視して剣を振ってくる。
それもただ振り回すだけでなく、正確にこちらの急所を狙うような、歴戦の剣士のような動きをしてくる。リリムがこちらの動きをかばいながら戦ってくれているおかげで紙一重で回避できているが・・・
「くっ・・・氷結の足止めすら効かないのか!?」
足元を氷漬けにすれば少しは動きが鈍るかと思ったが、止まったのは足の防具のみで、上半身の部分や剣などはそのまま通り抜けて襲い掛かってくる。人を模っているようでそれぞれがバラバラに動いているのだろう。
「グラさん!こちらへ!」
リリムに手を引かれそのままの勢いで抱きかかえられた。反対側にはアルルがすでに抱えられており息を切らしている。そのまま上空へと飛び上がりリリムが結界を張る。陸ではルルの準備が整ったようで魔法陣がいくつも重なって描かれており、魔法陣で魔法陣を描いているかのようだった。
「これだけぶつければどれか一つくらい効くでしょ!効きなさい!」
どうやらルルの対抗策とは片っ端から魔法をぶつけまくっていくことだったらしい。逆式結界を張り外へと漏れないようにしながら、中では数えきれないほどの魔法攻撃が飛び交っていた。
「光、闇、炎、風、水、氷、雷、土、斬撃に突撃に打撃・・・効いている様子がありませんね・・・。」
「火力の問題か?だけどルルの火力を超えることなんて・・・。」
だが、ルルは"見つけた"とだけ呟くと未だ魔法がひしめき合っている結界の中へ飛び込んでいってしまった。自分で放った魔法とはいえ、あの中へと入っていったら一たまりもないと思うのだが・・・。
「いえ、姉様の魔法抵抗力があればあの中で眠りこけてしまったとしても問題ないでしょう。それより、姉様は一体何を・・・」
何を見つけたというのかその答えは分からないが、結界内の様子が明らかに変わってきている。さっきまでは乱雑に飛び交っていた魔法たちが、何かを狙っているかのように一点に狙いを絞って飛んでいる。
そして、魔法が止み結界も解かれ、ルルが手招きをしている。どうやらもう大丈夫ということらしい。地面には最初に見つけた時のように鎧や剣が落ちている。違いがあるとすれば、何かの破片が落ちており、代わりに兜の部分が無くなっていた。
「とりあえず分かったことは、この鎧とかは魔法によく似た何かによって動いていたってこと。自立行動の魔法・・・によく似た何かによってね。」
自立行動の魔法というのは、使い魔などによく使われている魔法で、指示があるまではあらかじめ決められた行動を取るようになる魔法だ。今回でいうなら近くの者を襲えとかそんなところだろう。
「魔法によく似た何かって、魔法ではないんですか?」
アルルの疑問に関する答えは半分くらいは僕でも検討がつく。ルルが頭を悩ましているのはこれらが魔力を伴わないで動いていたからだろう。念動力か神通力か怨霊の仕業か、なんにせよ厄介な話であることに違いはない。
「怨霊を神通力で制御していたってのが、一番ありえそうね。それで、その核となっていたのが兜だったのよ。あの魔法の中で全部の防具が兜を守るように魔法を受けていたわ。」
神通力とは文字通り神に通じる力、神話の時代にいたとされる神族が使っていたもので、現代では使える者などいないはずだが・・・
「いえ、ホルンも使えていましたし、宗教的に使える宗教があるのではないでしょうか?」
「その辺は私も分からないわ。歴史や宗教なんてさっぱりだもの。ただ、一つだけ思い出したことがあるわ。この鎧の裏に刻まれている紋章、これは過去滅ぼされたある国の紋章よ。」
それが神の国と呼ばれた、歴史上最も文明が発達しており、故に孤立し、妬まれ、滅ぼされた国・・・まるでその滅びた国の亡霊たちが現代に彷徨っているかのようだとルルが話す。
「その時代の記憶は二人にはないのかい?」
「さすがにありません。何千年前から生きているかすら覚えていないとはいえ、幼少期の記憶は残っています。あの頃にはすでに神話の時代はおとぎ話のような扱いになっていましたから。」
「そうねぇ・・・私も魔王と一緒に調べたことはあるけれど、そもそも文献の一つすらまともに残ってないもの。それこそ神のみぞ知る時代って感じね。」
なるほど・・・まぁ分からない事に頭を悩ませていてもしょうがない。いつも通り後回しにして目の前の問題を一つずつ片付けていこう。
そして四人で次の町へと向かった。
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