91.道中の落とし物
※以前執筆していた作品の106話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「もうすぐ次の町に着くけど・・・体調は大丈夫かい?」
ルルが気を失ったと聞いて少し焦りはしたが、単に魔力の過剰消費をしただけだから問題ないとリリムに説明され、とりあえず安心して休みはしたものの、一夜あけてもどこかフラフラしているルルを見るとやはり不安になってくる。
「んー・・・大丈夫じゃなかったら何をしてくれるのかしら?」
「グラさん何をするつもりですか?そんなことをしたら余計に体力を消耗して・・・痛・・・」
とりあえずからかうことしか考えていない二人の頭を叩いて先へと進む。シールは手紙と荷物を宗主国プルソンへ送る手配をするため、国境沿いを大きく迂回して海の方からアガレス王国へと戻り、向こうで手続きをしてまた戻ってくる予定のため、しばらくはこの三人での道中になる。
出会った当初からリリムは何かと僕をからかってきていたけれど、最近はあまりからかわれなくなったなと思った矢先にこれである。まさかシールが抑止力になっていたとは思わなかった。
「ま、私は大丈夫よ。魔力切れって言っても死ぬほどではないし、寝て起きたら魔力も回復していたわ。」
「むしろ私が一晩中見張りをしていたせいで寝不足で倒れそうです。グラさん介護を・・・あら、あれは何でしょう?」
リリムが茂みの方で何かを見つけたらしく、そちらへと歩みを進めていく。何を見つけたのか近づいて確認してみた所、鎧や剣などが数人分無造作に落ちており、血痕がこびりついていた。
「誰かが襲われた・・・にしては妙だな。どうして装備品だけが落ちているんだ?」
鎧などは比較的新しいもののようであまり使いこまれた様子もなく、どこか破損している場所なども見受けられない。だというのにこれを装備していたであろう人だけがすっぽりと消えてしまっている。
例えば魔物の類に襲われ食われたとしても、骨か、あるいは体の一部分くらいは残っていそうなものなのに、近くを見回してもそれらしいものはどこにも見当たらない。
吸血鬼や氷の蛮人に食われたとしても同じで、骨や肉片の一部くらいは落ちているはずである。まさか血痕が付いたとこで装備しているのが嫌になって脱ぎ捨てたのだろうか?そんな潔癖症な人間がこんな装備を必要とする職につくとは思えないが・・・。
「ルル様ー!や、やっと追いついた・・・。ひ、ひどいじゃないですか!私を置いていくなんて!・・・って何ですかこれ!?」
不思議な現場に頭を悩ませていると、寝坊して置いてきたはずのアルルが後ろから現れた。一緒に行くと言っておきながら出発の時にがっつり寝ていたのでそのまま放置してきたのだが、どうやら何とかここまできたらしい。
「アルル、あなたどうやってここまできたのですか?それに私が作った服はどうしたのですか?」
「ちゃんと持ってきてますよ!ほらっ!」
そういって背中に背負っていた鞄から服を取り出して見せた。折り目正しく丁寧に畳まれている辺り意外と几帳面なんだろうか・・・。
「いや、そうじゃないでしょ・・・。アルル、あなたどうやってここまできたのかしら?その姿で国境を超えることなんて・・・。」
「あ、それはですね!こうしたんです!」
ポンッといった効果音が聞こえてきそうな感じを出しながら煙に包まれたかと思えば、掌サイズに小さくなったアルルがリリムの頭の上に着地した。どうやら姿を小さくする魔法のようで、これを使って密入国してきたらしい・・・。
「これは・・・シトリ教国にバレるとまずいですね・・・。とりあえずアルルはグラさんの上に乗っていて下さい。グラさんは彼女に隠密の魔法を。」
リリムの指示に従いアルルを頭の上に乗せて隠密魔法をかけておく。今回はただ姿や気配を隠すものではなく、特定の人物以外からは認識されないようにする魔法をかけておく。これで僕たち三人とシール以外からは存在が気付かれないはずだ。もっとも、本人が騒ぎ立てれば意味を成さないが・・・。
「と、いうわけだから、人前では騒いだりしないように注意しなさい。あと、寝坊したらまた置いていくわよ。」
「はーい・・・。ところで、その剣とかに付いている血・・・人間の臭いがしますけど、ルル様たちが消し飛ばしたんですか?」
どういう臭いなのかはさておき、アルルの鼻が捉えた臭いは間違いなく人間の血の臭いだという。犬の混血種であるアルルが臭いを間違えるとは考えにくい。だがそうなると、この血痕は所有者のものなのか、誰かと争ってついたものなのか・・・
「ん・・・?鎧の裏側になにか・・・うわぁ!?」
鎧を手に取って、裏側にある魔方陣のようなものが刻まれているのが見えた瞬間、落ちていたはずの剣が襲いかかってきた。かろうじて急所は外せたものの、右肩を大きく切り裂かれてしまった。
「グラ!?すぐ回復するわ!・・・!?これは・・・反転式!?」
反転式・・・回復を無効化する魔法の中でも最上級の、猛毒・・・。回復魔法を打ち込めばそれがそのまま攻撃魔法のように体を傷つけていく魔法、解除する術は術者を殺すしかない・・・
「って習ったんだけど、やっぱルルはルルだねぇ・・・。」
自分の右肩を触ってみればすでに傷は塞がっており、ルルに連れられて安全な位置まで距離を取って前を見れば、リリムと元の姿に戻ったアルルが双剣を抜いて戦っていた。
「反転式を消せたわけじゃないわ。物理的に傷口を塞いだだけ。あとは自然治癒に任せるしかないから無茶はしないでね。」
「姉様!いちゃついていないでこちらの援軍を!」
「な、なんなんですかこれー!?」
やはり、先程のは見間違いではなく、落ちていたはずの剣や鎧などが、人が纏っているかのように形作り、まるで透明人間と戦っているかのような状況を作り出していた。
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