89.野営の落とし穴
※以前執筆していた作品の104話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「それでは、私たちは次の町へ参ります。皆様どうかお元気で。」
地下施設へ潜入した翌日、昨日同様民衆が宿へと集まりだして、リリムが早くも根を上げ始めたため今日中にこの町を発つことにした。といっても、時刻はすでに昼を回っており、今から出発したら次の町に着くのは深夜になってしまうだろう。
だが、もちろんそこは織り込み済み・・・というか、ルルが野宿をしたいと言ってきたため、次の町へ着く前にどこかで野宿をする予定だ。建前上は自分達もまた修行中の身であるため、野宿などの経験も積んでおきたいということにしてある。
町の人たちに監視されてるような、誘導されているような感じで町の外まで案内され、シールがお土産としてたこ焼きと篭手を渡されていたりしながら町を出た。
「硬質防御と筋力増強の魔法が刻まれてる・・・あのおっちゃん結構優秀じゃない?もっと仲良くしとけばよかったかなぁ・・・?」
シールが受け取っていた篭手は剣戟において助けとなるであろうもので、軽くて丈夫な作りになっている。素材がありふれたものであったため最高品質という程ではないが、少なくとも技術は世界的にも上位に入るくらいのものだろう。
「まぁそのくらいの装備なら私が作れますから。それに特に必要としていないでしょう?」
「まぁね。」
一応気に入りはしたのか装備したままにしてはいるものの、シールなら身体強化も使えるし、竜鱗の民の体にこの程度の防御力増強は大した意味をなさない。これが普通の魔導士・魔法剣士ならば大きな意味をもつのだろうが・・・。
「それでも、限界ギリギリの戦いにおいては、自分の制御と関係なしに魔法を起動してくれる道具の存在はありがたいものです。そんな戦いが今後訪れるのかは別として。」
「なるほどね。ところでその魔剣はどういうものなんだ?」
風の魔法がいくつか付与されているというのは聞いているが、具体的にどういった魔法なのかまでは確認できていなかった。
「ふふふ・・・この刀は・・・こうやって使うのだ!」
そういってシールが刀を抜き振った瞬間、見えない紐のようなもので体を縛られたのを感じた。そして、そのまま空中へ持ち上げられブンブンと振り回され、茂みのほうへと投げ飛ばされてしまった。
「わはは!たこ焼きの恨みだ!思い知ったか!」
あの時は急いで発ちたかったし、お土産として別途に用意してもらったというのに・・・。それはそれ、これはこれ、と言われてしまった。
「これがこの刀の力だよ。風刃を鞭のように操ることができるんだ。普通の人ならそれで終わりなんだけど、僕にとっては自分の手のように扱えるからね。こういうこともできるぞ!」
そういって今度は僕の両頬を引っ張ってみたり、靴紐を解いてきたりと、かなり器用に扱えるようだ。今のところ迷惑しか被ってないけど・・・。
「うーむ・・・さすがに触ってる感触はあまりないな・・・痛っ!?」
靴紐を結んでいる間にまたシールが何か悪戯をしたようで、リリムの拳骨を喰らっていた。・・・どうせ胸か尻かを揉んだのだろう。
「これは気をつけないといけませんね。風であるが故に物理的な実態を伴わないので、扉に鍵を掛けていても中に潜り込ませて自由に開けることが出来てしまいそうです。」
「大丈夫!僕は紳士だから、寝込みを襲うようなことはしないよ!着替え中に乱入することはあるかもしれないけどね!」
シールが親指を立てて高らかに宣言し再びリリムの拳骨を喰らっている中、さっきからルルが一言も発していないことに気がつき様子を伺うと、地下施設でくすねてきた植物をまじまじと見つめていた。
「ん?あぁこれ?ちょっと気になってね・・・。麻薬は麻薬なんだろうけど、普通の物と少し違うというか・・・。まあもう少し調べて詳しく分かったらまた説明するわ。」
ルルが野宿をしたいと言い出した理由は、この植物を調べるのに室内や街中だと危険かもしれないという点と、できる限り人目に付かない場所で調べたいというので道中で野宿をし、そこで調べることにしたからである。
そろそろ日も沈んでこようとしてきたので、舗装された道から離れ木々が生い茂る中へと入っていく。途中少し開けた場所があったためここを野宿の場所に定めて火を熾す。ルルが調理器具を一通り取り出して食事の準備をするのかと思ったが、本人は穴を掘って地中に潜っていってしまった。
「もしかしてだけど、即席の地下研究施設を作ろうとしてる・・・?」
「恐らくはそうでしょう。姉様は以前も同じようなことを何度かしてますから問題はないでしょうが・・・。」
そう、ルルの方は特に問題もないだろうし心配もしていないのだが、問題は僕たちのほうだ。
「はい、それじゃあ・・・誰がご飯の準備するの?ちなみに僕は料理は出来ないからね!焼いたりくらいならできるかもしれないけど・・・。」
「僕も同じだ。野宿の時は保存食か、その辺の動物を捌いて焼いて食べるくらいのことしか経験がない。」
「食材を無駄にはしたくありませんので、私は一切手をださないことを誓います。」
と、三者三様の反応を見せたところで揃ってため息が出てしまう。焼いただけのものなら用意できるが、とてもじゃないが普段食べているようなものなど作れない。
ルルが置いていったこの調理器具たちを使いこなせるわけもなく、とりあえず鍋に水を入れてみたり、野菜の皮を剥いてみたりしたものの、そこから先へ進むことが出来ずにいた。
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