8.水の竜神 エリアス
※以前執筆していた作品の17話~18話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「竜神様の祠・・・ですか?」
リリムがエレナを背負い、ルルが僕を背負い、自分も一緒に行くと言い出したコロンをルルが抱えながら、馬の全速力よりも早い速度でスフラの町へと向かっている。
「うん。みんなそこにいるの!りゅーじんさまが、みんなを守るからってそこに呼んだの!」
コロンが言うには、町は壊滅的なほど崩れてしまっているものの、殆どの町人は魔物が来る前にその祠へと逃げ込むことができたらしい。そのため、無事とは言えないが死者を出さずに全員生き延びているとのことだ。
「竜神様の祠というのは分からないが、町人の殆どが逃げ込める場所となれば、おそらく笛吹の洞窟のことだろう。」
海から吹き込んでくる風が洞窟の中を巡り外に出る際に音が鳴るらしく、それが笛のようだというところから笛吹の洞窟と呼ばれている。そこならば場所は分かるため、背中からルルに指示を出して笛吹の洞窟を目指してもらう。
だが、リリムもルルも前へと進む速度を少しずつ落としていった。体力が切れたのではなく、突然止まってしまうとその衝撃が3人に伝わってしまうため少しずつ速度を落とし、完全に停止した場所の丁度目の前には魔物の群れが広がっていた。
通り過ぎながらの爆撃でこの程度の魔物は消し飛ばすことができるのだが、道をふさぐ魔物に違和感を覚えたので、調べるためにも一度足を止めて闘うことを選んだようだ。
「どの魔物も魔力反応が歪ね。召喚術によって使役されている魔物のようだけど、これほどの量を操るのは普通じゃないわ。」
「私とルル様とリリム様の魔力量を足して、やっとこの一面の数を操れる程度でしょうか?この先の道や町にも同じくらい魔物が残っているのだとすると・・・」
「竜神様の仕業・・・ということだろうか・・・」
竜神とはそれぞれの系統の魔法を極め、膨大な魔力量を持っている存在である。もしこれが竜神の仕業ということならば、この先に竜神が待ち構えていることになるだろう。
「うーん・・・立ち止まっておいて何だけど、ここであれこれ考えるより、さっさと目的地に辿りついてしまったほうがいいわね。」
ルルがそう言い切った瞬間、陸も空もかなりの数の魔物がいたはずなのにそれらがすべて一瞬で消え去った。
視界の端に母上が両腕を振るっていたのが見えたので、母上がやったのかと思ってそちらを見ると僕と同じように茫然としていた。
「私が消し飛ばそうと思ったのですけれど・・・ルル様?今のはどの系統の魔法ですか?全く気配も何も感じなかったのですけれども・・・」
「ふふ。ただの爆炎魔法よ。単純な威力だけで言うなら、エレナのほうが高威力で撃てるわ。」
「爆炎なんて何も起きていないけど・・・」
魔法の威力は魔力をどれだけ魔法に込めることができるかで変わり、それは保有している魔力量や魔法制御能力によって変わってくる。単純な保有魔力量は母上のほうが多いらしく、それ故に単純な威力は母上のほうが上になるらしい。
「確かに爆炎魔法が撃たれた形跡は残っています・・・。ルル様が予備動作も一切なく無詠唱でこれだけの魔法を撃てるのは当たり前として、音も何も出さずにやるには・・・」
母上がぶつぶつと呟きながら考察をしている。アガレスの魔法神は騎士として軍に入ったが基本的に魔法研究ばかりをしているため、研究対象を見つけるとひたすらに没頭してしまう癖がついてしまっている。移動を再開し始めてからも何やらブツブツと呟いており、答えにたどり着いたのかルルの方を見て声を掛けてきた。
「もしかして、これが逆式結界・・・でしょうか?」
あら?思っていたより早くたどり着いたわね。正解よ。逆式結界を張って爆炎魔法を放って、結界の外に漏れる音は消音の魔法で消したのよ。その後消火の魔法を撃って火を消せばさっきの現象の完成ってわけね。」
通常の結界は外から内への攻撃などを防ぐもので、それを逆式、つまり反対向きにすることで、内側から外側への攻撃が漏れることのない結界が出来上がるということらしい。敵の体ごと囲ってしまえば逃げ場のない攻撃が結界内で暴れ続けることになるため、ある意味で攻撃魔法に対する究極のカウンターになる。
ただ、発動するのに少し時間がかかる上に座標固定をする必要があるらしく、個々を覆うには相手が動いていない状態である必要があるそうだ。
「答えにたどり着くことはできましたが・・・これは真似できそうにありませんね・・・。難易度が高すぎます・・・。」
世界的に見ても人類最高峰の魔法技術を持っている母上ですら諦めるような難易度の魔法を、いとも容易く扱ったルルは、いつも通り何百年も鍛錬したからできるだけだと答えていた。
「ここが笛吹きの洞窟ですか・・・結界が張ってありますが・・・」
スフラの町はずれ、海沿いにあった洞窟はかなり大きく、中も広くなっているようで、これならば町人も詰めれば全員入っていられるだろう。
街中は通り過ぎる際に確認したところ魔物が大量におり、それにびっくりしたらしいリリムが背中に背負っていた"荷物"を落としてしまったと棒読みで嘆いていた。
もっともそれを気にしているのはコロン以外いないため、ルルたちとともに洞窟へと到着した。
「竜神が張ったにしては弱い結界ね。もしかして、この程度の結界しか張れないほど竜神が弱っているのかしら?」
竜神にも寿命はある。人と比べれば遥かに長い時間だとしても、それでも老いて力が弱くなることもある。あるいはもしかしたら、魔物を召喚している者と闘っている可能性もあるため、竜神の戦場を探すために空や海を眺めていたら、どこからか手のひらにのる程度の大きさの青い光が現れ近づいてきた。
「何者だ!?ってその子はコロンじゃないの!てことは、あなたたちは王都から来た騎士か傭兵かよね?よかった・・・間に合ったのね。・・・っていうか、あなたたち・・・ルルとリリムよね?」
二人のことを知っているらしいこの青い光は、念話のように直接脳に語りかけてきているようでどんな声なのか判別がつきにくい。
「私たちの事を知っているの?あなたは一体・・・」
「私よ!エリアスよ!それより助けてちょうだい!最悪殺してもらうしかないと思っていたのだけど・・・あなたたちがきたなら助かるわ!」
エリアスと名乗ったこの青い光が誰なのかと尋ねれば、水の竜神エリアスだと言う。水系統の魔法を極めており、海竜族であるエリアスは本来海蛇のような体を持っており深海を漂っているはずで少なくともこんな青い光ではないらしい。
「エリアス・・・あなた、また寝てたわね・・・。襲撃に気が付けないほど熟睡するなら起床魔法や防御魔法を設置しておきなさいって昔言った記憶があるのだけれど?」
それをルルが言うのか・・・とリリムにこっそり聞いてみたが、"それはそれ、これはこれです。"と返されてしまった。
「うぐっ・・・ち、違うのよ!海底に設置してはいたんだけど、た、多分なんかすっごい海流が襲ってきて気が付いたら流されちゃってた・・・てきな?」
深海にそれほど強い海流があるのかは知らないが、巨体な海竜族が流されるほどの海流があるのなら目が覚めると思うのだが、どうやら単に寝相が悪く寝返りついでに流されてしまったようだ。
「ま、まあそんなことは置いておいて、大変なのよ!この先の草原にも、町の中にも魔物が沢山いるからどうにかして・・・」
「町中の魔物なら全部片付きましたわ。」
振り返るとそこには母上がおり、すでに町中の魔物は殲滅し終えたそうだ。草原のほうはここへくる途中に殲滅しているので、一先ずは全部片付いたようだ。
「人間もいたという話だったのですけれど、偵察の方が人型の魔物を見間違えたのだと思いますわ。少なくとも人間は一人もいませんでした。」
人型の魔物は武器を持っていることもあるため、遠目から見たら結構見間違えることが多い。特に知識の少ない者が偵察に行くとそういった勘違いをしやすいので、通常なら王宮の騎士や密偵が見に行くのだが、今回は急だったこともあって冒険者や普通の町人からの報告が最初の情報として流れたのだろう。
「あなた、アガレスの魔法神よね?ありがとう!この間も助けてくれたしいい人なのね!」
「もしかして、その時の魔物もあなたのせいで現れたのかしら?」
「ギクッ!」
ルルの指摘を受けてだんだんと光が弱くなっていた。おそらく余計なことを言ってまた説教されると思い萎れてしまっているのだろう。
だが、再び強く光りだして、慌てて説明された現状は思っていた以上に深刻で、さすがのルルもリリムも解決方法を見いだせずにいた。
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