87.変身魔法
※以前執筆していた作品の102話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「それで、そんなにたこ焼きの箱を持って帰ってきたのですか・・・。」
外は最初に比べて人数が減ったとはいえ、未だに面会を求めてくる民衆がちらほらと残っている。今までは噂で聞く程度だったが、いざ自分が伝導者としての立場になるとこうも大変とは思わなかった。
故に、うかつに宿の外に出ることも出来ずにいたため、シール君が持ってきてくれた食事は結構ありがたかった。だが、姉様も食料を調達に外へ出てしまっているため、あまりこれを食べ過ぎると姉様が用意した分が食べれなくなってしまうかもしれない。
「そこは大丈夫だよ。ル・・・リゼさんにはさっき外で会った時に伝えてあるから。これはリーゼムさんの分ね。」
そういうことなら、安心して食べられる・・・ともならないのが困り物だ。なんせあの姉は全員同じくらいの胃袋を持っていると勘違いしているのだから・・・。
「ま、食べきれなくて余ったら自分で処理するでしょ。それより早く食べよう!なんせあのセナルが人のものを奪ってまで食べるほどのおいしさなんだから。」
シール君から箸を受け取り、こぼさないように小皿に移して一つずつ食べていく。買ってからそれなりに時間が経っているはずだが、箱に炎魔法が付与されており、中は熱々のままだった。
「ひどるさん・・・すみませんがみずを・・・」
「火傷は僕には治癒できないから、あとでリゼさんにお願いしてね。」
「さて、この民衆を操っていた黒幕はどこにいるのやら・・・。」
隠密の魔法を起動して街中を探る。いくら伝導者が珍しいからといって、あそこまで群がってくるのはさすがにありえない。民衆は魔法で操られた形跡などはなかったから、おそらくは金か何かで動かされているのだろう。
正体がバレたとは考えにくいが、アガレス王国側からきたよそ者を警戒し、足止めしておくにこしたことはない。これが本当に足止め目的だけだというのなら問題ないのだが、他の目的があるのだとすれば・・・。
「伝導者に、プルソン聖皇の手の者に見られるとまずいものがある・・・ってことだよね。」
突然耳元に声を掛けられ思わず悲鳴を上げそうになってしまったが、同時に口を押さえられていたためなんとか悲鳴を上げずにすんだ。
「もう少し上手く隠れないと、僕じゃなくても見つけれる人はいるかもしれないよ?」
そういって隠密の魔法を掛けなおしてくれた恋人の鳩尾に一発入れて、改めて黒幕探しを二人で続ける。どうやらグラも同じような結論に至ったらしく、色々と探っていて、先に何かを見つけたが自分ではそれをどうすることも出来ないということで、私を探している途中だったらしい。
「ここだ。ここ道に魔導線が張り巡らされている。数は272本。上を飛び越えて確認したんだけど奥も普通の町中だった。ただ、途中に細い分かれ道があって、そっちに何かあるかもしれない。」
両端を木箱が積み重ねられて封鎖されている街中の狭い路地に、そんな数の魔導線が張られているなど不自然でしかないが、その不自然さを見抜ける者はごく一部だけだろう。
だが、そのごく一部の人間に伝導者は値することが多い。なんせ、その魔法技量と"見抜く力"を認められて初めて伝導者の試験を受けることができるのだから。
「これは・・・人間の姿じゃ突破は無理ね。気付かれてもいいというのなら話は別だけど・・・。」
建物の上から私の膝くらいの高さまで満遍なく張り巡らされている魔導線を潜り抜けることが出来るのは、せいぜい猫とかくらいだろう。
遺跡にあるような罠と違って、これに触れても侵入者の存在を伝える程度だろうが、それはつまり、誰にも入ってきて欲しくない場所であることを示している。
とりあえずこの先へと進むために、一度宿へと戻ろう。この場ですぐに解決できなくもないけれど、さすがに私にも羞恥心というものがある・・・。
「なるほど、それで帰ってくるなり裸になりだしたのですね。」
宿へ戻るなりいきなり服を脱げといわれ、たこ焼きを食べ終わってくつろいでいた二人に奇異の目でみられつつ服を脱ぐと、目の前に同じく裸のルルが現れて何かの魔法を起動した。
「にゃー・・・にゃ!?にゃーにゃーにゃー!!!」
『落ち着きなさい。今私たちは変身魔法で猫になっているの。この魔法の欠点は二つ。一つは変身する際に服が全部はじけ飛んでしまうから予め脱いでおく必要があること。もう一つは変身した動物の鳴き声しか発声できなくなるの。念話で会話は出来るから、一応問題はないのだけれどね。』
そういわれてようやく落ち着きを取り戻す。いきなり体が小さくなったかと思えば猫の鳴き声しか出なくなってしまい混乱したが、なるほど確かにこれならあの魔導線を潜り抜けることが出来るかもしれない。
「ふむふむ。猫になっても性別はちゃんとそのままなんだね。ついてるものがちゃんとついてる。」
シールにいきなり体を持ち上げられて確認されてしまう。思わずシールを引っかこうとしたが僅かに前足が届かず空を切ってしまった。だが、シールが僕をおろして同じようにルルのほうを確認しようとした矢先に部屋中が冷気に包まれた。
『・・・猫の姿になっても魔法は使えるのよシール君。氷漬けと丸焦げ・・・どちらがいいかしら・・・?』
念話はどうやら一対一でしか送れないらしく、ルルがシールに向かって言った言葉は分からないが・・・シールの表情でなんとなく察した。
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