83.攫われた姫君
※以前執筆していた作品の100話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「・・・というわけで、残念ながらお前を心配している者はいなかったそうだ。」
自分の命令で攫ってきたとはいえ、ここまで何とも思われていないとなるとこの女が偽者なのではないかとさえ思えてきてしまう。
だが、持っている能力も知識も間違いなく本物であり、牢屋に入れられてなお気品あふれる佇まいをしているのを見れば疑う余地などないだろう。
「それは、まあ・・・なんとなく分かっていました。あなた様がルル様たちのお知り合いであり、あの二人の脅威を存じているお方だと伺っておりましたから。私の身に何かあれば、それはあのお二人を敵に回すことになる・・・はずですから。」
確かにせっかくここまで国を発展させたのに、あの二人に喧嘩を売ってしまってはここまでの苦労が水泡に帰することになる。
先代から玉座を簒奪して数百年、他国へと侵略したり略奪をせずとも暮らせるような国作りを続けてきた。ある者はそれを"らしからぬ愚"と非難するが、私はそれでも私の思う道を進み続けた。
荒廃し争いしか生まれなかったこの国が、未だ血の気の多い者も多いが、自国で作物を育て、畜産業を営み、人間の国となんら変わらぬ文明まで発展してきた。
もし、あの姉妹に喧嘩を売ってしまえばこの国ごと消滅しかねない。勝てるかどうかも怪しいというのに、被害を出さずに押さえ込むことなど不可能だ。
「それならば、何故私を攫ったのでしょうか?万が一にもルル様たちの怒りを買ってしまえば、あなたが危惧していることが現実になってしまうでしょう。」
「悲しいことにあの娘共とは数百年の付き合いがあってな、互いの性格もおおよそ把握している。お前を攫った程度で怒るような奴ではないな。」
恐らくはこの女を攫った目的・理由も気がついているだろう。だからこそ、安心していられる。
「それならば、私を攫った理由をお聞かせ願えませんか?お気遣い頂いてるおかげで退屈も苦痛もありませんが、多少の不安が残っておりますので。」
牢屋こそ逃げ出されたりしないように魔封じの結界を張り強固な作りにしているが、か弱き人間が死んでしまったり狂ったりしないよう中にはふかふかのベッドと大量の書物を入れ込み、食事も国自慢の一品を与えている。
だが、そんな待遇を牢屋の中で受けているという矛盾が不安を呼び起こしてくるというのだから、人間というのは面倒くさい生き物だ。
「ふむ・・・三つだな、お前を攫った理由は。一つはアガレス王国の戦力低下を依頼されたがためだ。」
シトリ教国には多少の恩がある。故に今回の戦争も少しばかり手を貸していたのだが、あの金髪どもが参戦したと聞いた時点で我が国の者は全員引かせた。だが、それを裏切りと捕らえられるのも面倒くさいので、アガレスの魔法神と呼ばれているこの女を攫い、アガレス王国の戦力を奪うことを代わりとした。
シトリ教国の馬鹿共はこれで納得してくれたどころか、アガレス王国の大幅な戦力低下に協力したことにものすごく感謝してきた。実際は入れ替わりでもっとヤバい奴らが参戦してきたからこその撤退だというのに。
「まあ恩があるといってもそれほど大きなものでもないからな。これで貸し借りは無しになったし今後参戦することがあるとすれば、アガレス王国側に参戦して勝ち馬に乗らせてもらうがな。」
だが、正直な話この辺りはどうでもいいことである。この女を攫ってきた理由は残りの二つの方が意味合いが強い。
「もう一つは土壌と河川の開発に協力してもらいたい。この国には土魔法も水魔法もまともに使えるものがいない。以前どこぞの金髪研究者に協力してもらった結果、大噴水が起きて山が一つ消えてしまってな・・・。不幸中の幸いか、そこからあふれ出ている水を使ってなんとか田んぼは作れたのだが、最近になってまた被害が出てしまってな。今度はしっかりしたものを作りたい。」
あの時はさすがに怒りが爆発したものだ。私がせっかく作り上げた集落と畑が全滅してしまったからな。何をどう失敗したら地下水をくみ上げるだけの作業が、山を消し飛ばすほどの噴水を起こすことになるのやら・・・。
「あー・・・そういえば以前、あなた方に協力しようとしたというのに文句をいわれたとぼやいてましたね・・・。ルル様は最強ですが天才ではありませんから、失敗を積み重ねて今の力を得たのでしょうね・・・。」
「失敗の規模が段違いだがな。」
あの二人を盲信しているであろうこの女ですら呆れている。そして、師の失策は弟子が返すと言ってくれたため、どうやら協力的ではあるらしいが・・・
「ご安心ください。竜神様ほどではありませんが、魔法制御や研究に関しては覚えがあります。どこまで期待に添えることができるかはわかりませんが、精一杯やらせていただきます。」
ふむ、想像以上に協力的というか、落ち着き払っている印象を受ける。王族故なのか、二人の知り合いだからなのか・・・。まあ、理由はなんでもいい。利用できるのなら利用するだけだ。他人の・他国の事情など知ったことではない。
「それと、最後にもう一つ。これは協力するかしないかはどちらでもいい。現物を見てからの判断でもかまわない。・・・神話の遺跡の研究・踏破に協力してもらいたい。」
神話の遺跡に関する情報はいかんせん量が少ない。そのため、ただ知識があるだけの者では使い物にならない。この女は地頭の良い女であるからこその依頼だ。
「現在、各国の王族に直接交渉し宝物庫の中から使えそうな道具や文献を集めている。アガレス王国は本来ならこの後行く予定だったのだが、事情が事情だからな。暫くしてからか、国が滅んだときにでも調べようと思っていたところだ。」
「そういうことでしたら・・・。私個人としても興味はありますが・・・。」
さすがに、神話の遺跡を調べろと言われればどんな強者でもしり込みするだろう。過去同じように依頼をした者たちも、金髪二人とテイルトールの三人を除いて皆同じ反応をしていた。
「遺跡の方に関してはおいおい考えていけばいい。とりあえずは土壌と河川作りの方へ取り掛かってくれ。補佐は数名つける。何かあればそいつらに伝えればいい。無骨な荒くれ者が多い国だが、足を引っ張るような愚か者はいない。力仕事なんかはそいつらに依頼するといい。」
ここまで話をした感じでこの女が逃げ出す可能性は低いと感じたため、牢屋から出し個室を与える。そして呼びつけた補佐の者たちと共に外へ出て行き土地の確認に向かった。
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