82.潜入開始
※以前執筆していた作品の99話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「あなた魔族よね?わざわざこんなところに潜入してくるなんて何を考えているのかしら?」
扉の外で捉えた男はどうやら魔族のようで、切られた部分はすでにルルが治したのだが未だに違和感が残っているようで、しきりに足を触っている。
「俺は魔王様からの伝言を届けにきただけなのに・・・攫った姫さんなら無事だってことを伝えろって言われたから来てみたらお前ら全く気にしてないんだもん・・・思わずずっこけたわ!」
隠密魔法を使ってうまく潜入したものの、僕たちが余りにも母上のことを気にしてなさ過ぎた結果こけてしまい、その動きを感知されてしまったようだ。随分と間抜けというかお粗末な隠密だな・・・。
「いや見つかるなんて思ってなかったし・・・。俺、これでも魔族一の隠密なんだけどなぁ・・・。」
「そうね・・・私たちも気づかなかったし、逆にどうしてグラは気づいたのかしら?」
どうして、と言われても気づいたから気づいたとしか言いようがない。それよりもこの男の処分をどうするか決めなければならない。一応魔王の手先だというのなら下手に手を出すのもまずいかもしれない。
とりあえず何か盗み出したりしていないかだけ確認し、外に追い出して解放した。ついでにこちらからの伝言も一つ伝えて貰うことにした。
「さて、それでは行きましょう。準備はよろしいですね。」
一夜明け、全員髪を黒く染めて白と茶色を基調とした袈裟のような服を着て旅立つ。僕は元々濃い茶色の髪だったのでそれほど代わり映えもしないのだが、銀色の髪だったシールも、金色の髪だった姉妹二人も黒髪になっているのは違和感がすごい。
「最近はこの方法で入国していなかったから久しぶりだけど・・・なんか・・・この髪相変わらず慣れないわ・・・。」
黒髪はルルたち自身も違和感があるようで、頻りに髪をいじっている。その仕草がまた可愛らしくて見惚れてしまい、シールに小突かれるまで突っ立ったままになってしまった。
「ごほん・・・それじゃ出発しよう。伝導者として入国するから移動は基本徒歩で行くよ。入国日が記録されるから首都への到着が早すぎると怪しまれるからね。」
とりあえず今日中に最初の町に辿り着く予定だ。シトリ教国は町と町との間が徒歩で移動しても1日もあれば着く距離になっており、国内の移動が比較的安全だ。魔物などに完全に出会わないわけではないが、正直アガレス王国よりもこの辺は上だろう。
「それにしては、魔物・・・多くない?」
ルルが破壊した国境沿いの砦を抜け少し進んだ辺りから、周囲に少しずつ魔物が増えてきておりこちらの様子を伺っているようだった。
「こちらを見張っているかのような動きですね。あれらが召喚獣だとすれば納得ですが・・・。」
アガレス王国との国境から入ってきたのだから警戒されるのは当然だろう。だがどうにも居心地が悪い。
走らないなりに出来る限り速足で町に向かう。もし襲ってきた場合は僕とシールで対処しなければならない。
リリムが伝導者として、ルルがその補助、そして僕達二人が護衛ということになっているため、ルルはともかくリリムに戦わせるわけにはいかない。
「まあ、余計なことさえしなければ襲ってくる気配もないし、さっさと進んで町に入っちゃおうよ。」
魔物たちは常に一定の距離を保ったままだったので、周囲警戒は解かないまま、とにかく一直線に町を目指した。
「止まれ。身分証の提示を要求する。断る場合は即牢獄行きだ。」
「私は宗主国プルソンの伝導者リーゼム。こちらの方々は共に旅をし、護衛してくださってる仲間です。先日こちらの大陸へ辿り着きアガレス王国から順に巡る予定でしたが、アガレス王国の国内は戦火の真っただ中と伺い少々危険であると判断したため、先にシトリ教国の方へ巡らせて頂きました。」
リリムが例の紙を取り出し高圧的な衛兵に渡す。普段の凛々しい声ではなく少々か細いような、ひ弱な女性であると印象付けるような声色で話している。その演技に騙されてか、衛兵たちの表情も先ほどまでと違い少々下心が見え透いてくるような感じに変わっていった。
「本物のようだ。我々は宗主国プルソンの伝導者を歓迎する。町中は安全が保障されているが道中は危険な場所もあるだろうから気を付けてくれ。」
本当に紙が本物であるかどうかを確認しただけで通してしまうんだな・・・。いや、アガレス王国も同様だからとやかく言えないのだが、こうして潜入する側に回ってみると地味に危険というか、迂闊というか・・・。
「仕方ないわよ。宗主国プルソンの伝導者なんてそうそういるものじゃないし。それに、下手なことをすれば世界最大国家を敵に回すことになるのだから、心内でどう思っていようとそれを表に出せるはずがないわ。」
知識として頭で理解していたとしても、現実を見るとやはり少し違って見えてくるものだなと、しみじみ思う。一先ず宿を探し今日は休むとしよう。二部屋借りていつも通り男女で分かれようと思ったのだが、大部屋一つしか空いていないとのことだったのでそこを借りる。
一人一台のベッドで休めるはずなのだが、ルルが僕のベッドに入ってきたり、行為をし始めたら乱入するだとか撮影するだとかよくわからない釘の刺され方をしたりしたが、無事に休むことができた。
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