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81.伝道者リーゼム

※以前執筆していた作品の98話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。

「なるほどね。確かにそれなら行けるかもしれないけれど・・・その証書は本物なのか?」


リリムが王都から戻ってきた夜、購入してきた布で衣服を縫い繕いながら今後の策を伝えてくれた。宗主国プルソンの伝導者としてシトリ教国に潜入することが出来れば、確かに安全にかつ迅速に首都までたどり着けるだろう。


だが、問題はリリムが持っている伝導者としての証書が本物なのかどうかだ。この証書は聖皇から直接発行され手渡される物であるため、本当に、本物の伝導者しか持っていないはずである。


リリムには申し訳ないが、彼女が伝導者とはとても思えない。世界中の宗教を知り、その人に適切な宗教を伝え導くことが伝導者の務め。知識の部分は大丈夫だろうが、適正の見極めや導きが出来るとはとても思えない。


「まあ、グラの言いたいことはよくわかるわ。というより、実際リリムは伝導者ではないもの。」


やはり偽造証書かとため息をつけば、それは違うと即座に否定され、間違いなく本物の証書であるから確認してみるといいとまで言われたので確認してみる。この証書は鑑識の魔法を当てることで聖皇の名が浮かび上がってくるもので、各関所には宗主国プルソン産の鑑識魔法が刻まれた魔法具が渡っている。


「うわっ・・・本物だ・・・。リリムが伝導者とか・・・ルル姉ならまだしも・・・。」


「失礼ですね。」


一瞬シールを睨みつつも手元の布から目を離さないリリムの声は、いつもより若干怒気が混じっていた気がするが、正直僕も同じ感想を抱いた。だが間違いなくこの証書は本物だ。


「ん?あれ?グラっちよく見て!この証書の名前リリムじゃない!」


シールが指で示した場所にはリリムの名前はなく、リーゼムという名が記されていた。つまり、これはリリムの物ではなくリーゼムという人の物ということになり、それをリリムが持っているということは・・・。


「リリム・・・伝導者を殺めるのは世界中で重い罪として扱われている。アガレス王国王子として君を逮捕する!」


「その必要はないわ。リーゼムというのは私たち姉妹の姓なのだから。普通は証書には姓名全て記載されるものなのだけれど、聖皇の心使いかしらね、リリムのは姓だけの記載にしてもらっているのよ。」


何故そんなことになっているのか尋ねてみたが、秘密の一点張りで説明してくれない。まあこの二人のことだから聖皇と知り合いなのだろう。魔王とすら知り合いなのだから、聖皇と知り合いだったとしてもおかしくは・・・いや、おかしいか?


それにしても、二人に姓があるというのは驚いた。一部例外はあるかもしれないが世界的に見ても凡そ、姓を持つものは貴族であることが殆どなのだから、二人も貴族であるということになるのだろう。それにしても・・・リーゼム・・・どこかで聞いたことがあるような・・・。


「リーゼムって、もしかしてアイゼンバン・リーゼムのリーゼムですか!?」


アルルの興奮したような声を聞き思い出した。世界史において、一番最初に貴族となった内の一つがリーゼム家で、アイゼンバン・リーゼムとはその最初の当主の名だ。


「あら、そんな古い名を聞かされるとは思わなかったわ。それに、父の名前が歴史書に載っているのも初めて知ったわ。」


「私も初めて知りましたね・・・。大きな家という訳でもありませんでしたし、末端貴族だとばかり思っていましたが・・・。」


リーゼム家がどの時代に存在し、どの時代に潰えたかは正確な記録は残されていないが、アイゼンバン・リーゼムが父であるということは少なくともその、記録も残らない程昔から生きていることになるだろう。改めて、この二人は不死なんだなと思い知らされる。


「もしかして、それでホロンは私たちに手を貸してくれているのではないでしょうか?」


「確かにそうね・・・思えば古い歴史のことを色々質問されたものね・・・。ホロンも意地が悪いわ。知っていたなら教えてくれればいいのに。」


さらっと聖皇の名を呼び捨てにしている所にはもはや突っ込む気力もない。どうやら二人は歴史の生き証人として扱われていたようで、宗主国プルソンにいたころは大きな研究所や使用人も多く与えられていたらしい。そして、その見返りが過去の情報ということだろう。


確かに二人の持っている知識は、たとえ引きこもっていて実は知らない時代の方が多かったとしても、非常に価値のあるものだろう。それに、ルルの魔法技術は世界一といっても過言ではない。それをプルソンに納めていたのなら、旅のし易さのために伝導者としての証書を発行するくらいの事はしてもおかしくない。


「そうね・・・なんだか懐かしくなってきちゃったわ。この戦いが終わったら宗主国プルソンにも一度戻ってみたいわね。」


「その前にアモンの、魔族の国に行ってエレナさんを助け出さないとね。」


シールの言葉にリリムは手を止め、ルルはぽかんとした表情になってしまっている。どうしたのかと思えば二人して母上が攫われていたことを忘れていたらしい。まああの母上のことだから、本気の殺し合いにでもなっていない限り問題なく図太く生きているだろう。


体こそそこまで丈夫という訳ではないが、母上の性格なら魔族の国に攫われたとしても平然としているだろう。正直、母上の身を案じているのはその図太さを知らないシールとアルルくらいだ。


「いやいやいやいや!?魔族の国ですよ!?魔王に攫われたんですよね!?無事な訳ないじゃないですか!?」


「いやまあ・・・大丈夫だろう。母上だし。」


「エレナだし。」


「エレナですから。」


三人揃って大丈夫だろと言った瞬間、部屋の外で何者かが動く気配がした。瞬時に隠密の魔法を起動し扉を開ける。音もなく開かれた扉はその目で見ていなければ気づかれることはない。


だが、部屋の外にいた男は視界の端に扉を捉えていたのだろう。慌てて逃げ出そうとしたため、短剣を取り出し腱を切り裂き捕縛した。

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一言二言でも頂けるとありがたいので是非ともよろしくお願いいたします。


こちらのURLが元々の作品となっており、ある程度まで進んでいるので続きが気になる方はこちらもご覧ください。


https://ncode.syosetu.com/n2977fk/

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