80.リリムの秘策
※以前執筆していた作品の97話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「そういえば、シトリ教国を攻め落とすって話だけど、具体的にどうやるの?王様を倒せば勝ち?」
通常の戦争であるならば、要所要所を占拠していくことで攻め落としていくのだが、ここから先へ行くのは僕らだけなので、戦闘力は十二分に足りていても占拠をしていくだけの人数は足りていない。
そのため、シトリ教国の首都までは潜入という感じで進んでいき、王城や怪しげな場所を潰していく程度になるだろう。問題はそこまでどうやってたどり着くかだ。
僕一人なら隠密の魔法で問題なく到達できるだろうし、短い距離ならば三人を纏めて隠すこともできるだろうが、シトリ教国の首都はここから真逆の国の北部にあり、たどり着くまでにいくつもの町やら都市やらを抜けていかなければならない。
さすがにルルたちの悪行は既に知れ渡っているだろうし、普通に行ったら一般人も巻き添えにしての全滅進軍になってしまいかねない。いくら敵国とはいえ、それはさすがにダメだろう。
「そうねぇ、私たちもさすがにこの距離を休み無しで進むのは辛いし、かといって野宿ばかりになるのも嫌ね。魔法で変装とかしてもバレそうだしどうしようかしら。」
「それなら、私に妙案があります。アルル、ここからアガレス王国の王都までの往複はどのくらい掛かりますか?」
「え?んーっと・・・半日くらいだと思います!」
どうやらリリムの案を成すためには、一度王都へ行かなければならないらしい。四人も乗せて半日で往複できるものなのか聞いてみたが、どうやら必要な物を買いに行くだけらしいので、全員で行く必要はないそうだ。
一先ずリリムとアルルを見送った後、シトリ教国王城までの旅路を計画してみる。直線距離で行ったとしてもかなりの日数が掛かるだろうから、細かく街によって食料の調達やらをしていかなければならない。
「グラっちは真面目だねぇ。そんな計画なんて立てなくたって行き当たりばったりで大丈夫だって。」
「そうよ、いざとなったら私がどうにかするから、とりあえず食事にしましょう。」
「・・・二人とも、計画を立てて行動するのが苦手なんだな。」
一瞬ビクっっと体を揺らし、直後に街の中へ駆け足で消えていった二人を見て思わず苦笑がこぼれる。だが、あの適当さこそが長生きする上で大事なことなのだろう。僕はとてもあんな風には生きれそうにない・・・いや、馴れの差だろうか・・・?
「リリム様、王都で何を買うんですか?」
道中何事もなく無事に王都へたどり着き、目当ての店を目指す途中でアルルから疑問が投げかけられた。
「そういえば説明していませんでしたね。変装用の染髪剤と、衣装を作るための布や糸を買出しに来たのです。以前この王都で目的の布を取り扱っている店がありましたから。」
魔法で姿などを変えた場合、見破る方法がいくつもあるため潜入をする際には少しばかり危険だが、ただ髪を染めただけであったり服を変えただけの場合は、手間の割に案外気付かれにくいため結構効果的だ。
「そして、私には”これ”がありますから。」
そういってアルルに一枚の紙を見せてみる。だがこれが何の紙なのかはいまいち理解していないようだったので、店に着くまでの暇つぶしがてら説明する。
この一枚の紙は、世界で最も協力な保証書ともいえる。宗主国プルソンの聖皇より賜った、私の身分を伝導者として保証するという内容の物だ。もっとも、記載されている名前は"リリム"ではないのだが。
私たち姉妹がこれまで各国を問題なく旅が出来たのはこの紙のおかげだろう。国境で止められたとしてもこれを見せるだけで通ることができる。
宗主国の伝導者は保護されるべき存在であり、何人たりとその行動を妨げることは出来ない。これは全世界共通の法だ。
もちろん伝導者に選ばれるにはとても厳しい審査を通る必要がある。そんなものを偽名で通すことが出来たからくりは・・・今は秘密ということにしておこう。
「っと、ありました。この店ですね。ここで染髪剤を購入します。」
購入する染髪剤は黒色にするもので、これは宗主国の伝導者は髪が黒色でなければならないためだ。理由は諸説あるが、一番多くの者が語っているのは創世神の神が黒だったからというものだ。
もちろん、純黒の髪質を持っている者しかなれないというわけではなく、多くの伝導者はこうして染髪剤で黒に染めている。また、護衛の者も同じように黒に染め、同種の衣を羽織ることで仲間として認められ、同様に身分が証明される。
「なるほど・・・つまりリリム様に服を作ってもらうために体の隅から隅までさらけ出して測定してもらう必要があるんですね!」
体をくねらせながら嬉しそうに言っているところ申し訳ないが、上から羽織って紐で縛って止めるような物なので、計測するのはせいぜい身長と腕の長さくらいで十分だ。
だが、そのことは黙っておこう。・・・せっかくなのだから少しくらい楽しませてもらおう。
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