7.月下の巡り合わせ
※以前執筆していた作品の15話~16話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「さて・・・どうしようかしら。」
王都にたどり着いたのが夕刻頃。そして、そこから王都で営業している食事処を順番に巡り食べ歩き続け、気が付けば営業している店が殆どなくなってしまっていた。半分にかけた月明りの下、広場の噴水前に座りつつ焼き鳥を頬張りながら頭を悩ませている。
購入した料理の全てが美味しく欲望の赴くままに進んだ結果、本日の宿を取り忘れていたことに気が付いたのはつい先ほどの話。日中は暖かくなってきたとはいえ、夜間は冷え込みがまだまだ激しい中、寒空に取り残されてしまっていた。
「リリムが宿を取っているかしら・・・。グラは貴族っぽいから、頼めば屋敷の隅にでも一晩くらい泊めてもらえないかしら。」
誰に言うでもなく淡々と呟く言葉に返事はない。私は一人でいること自体は特に気にしないけれど、リリムが万が一にでも一人になってしまっていたらと思うと早めに合流してあげたいという気持ちもある。
そもそもはぐれるような行動を取るなというのはさておき、本来ならばすぐにリリムを探しに行きたいのだけれど、そうすることもできない理由もある。
「この子を放っておくわけにもいかないわよね・・・。」
どうも自分は子供に好かれやすいのか、今、私の腿を枕にしながら10歳くらいの女の子が寝息を立てている。この広場に座って、買ってきた焼き鳥とお酒を堪能していたところに現れて腹の虫を鳴らしだし、手持ちを分けてあげれば喜々として食べ始めて気が付いたら満足そうに眠っていた。
服もボロボロで体中に傷を負っているこの少女は、最初見たときは浮浪孤児のような子かと思ったけど、そういう子は大抵日陰で生活しているせいか肌が白いし、ボロボロのわりには栄養不足な様子も見受けられない。
頭を撫でてあげると少しだけ髪が痛んでいるのが分かる。日に焼けた褐色の肌に痛んだ白い髪、そして、微かに香る独特の匂いから察するに、この子は王都南にあるという海辺の町の子なのだろう。
「海辺の町・・・確かスフラと言ったかしら?あそこからここまでくるのには結構な距離があると思うのだけど・・・。道は舗装されているから歩けないこともないのだろうけど、それにしても・・・よね。」
せめて宿が取れていればこの子をベッドに寝かすこともできたのにと、少しばかり自分の行動を・計画性の無さを後悔してしまうが、宿を取っていなかったからこそこの子と出会うことができたのだと自分に言い聞かせて夜明けを待つ。
そろそろ日を跨ぐころだろうか。王宮の方角に僅かな明かりこそ三重はするが、そこに行ったところで休めるわけでもないだろうと、噴水の水の音を子守歌替わりにして眠りについた。
助けて・・・!
タスケテ・・・!
嫌・・・!
イヤ・・・!
「来ないでぇ!」
悪夢にうなされた自分の叫び声と共に目を覚ました少女は、歯をカチカチと鳴らしながら乱れた呼吸を整え、夢であることに安心した。
日がわずかに顔を出している。記憶では夜に王都へとたどり着いていたはずだから今はその翌朝だろうか?幼いながらに必死に状況を整理し、うっかり枕にしてしまっていた女性へ静かにお辞儀をして歩き出そうとした。
「こんな時間に動いても、どこのお店も開いていないわよ。」
まさか起きているとは思わず、びっくりして転びそうになったが、すぐに声の方へ振り向き直す。
昨夜、焼き鳥とお水を分けてくれたこの女性は、目を開けることもなく話しかけてくる。
「私もどこかのお店が開くまで退屈なの。よかったらお話ししないかしら?」
片目だけ開けて優しく微笑みかけてくれた女性からは、なんとなくだがこの人を頼れば大丈夫という安心感を感じさせてくれた。
そして、その安心感からか、何日も歩き続けた疲労からか、思わず涙を零しながら抱き着いてしまった。
「姉様が見つかったのですか。」
日が明けて、特に任務もなかったためルルでも探しに行こうかと思った矢先に、急報が飛び込んできた。
たまたま王宮の門番と話しをしていた所に冒険者の一人が来たのでそのまま話を聞いていたのだが、緊急性があると判断したため、門番の一人には王宮内へ報告に行ってもらい、僕は母上に報告するために離宮へときた。
「アガレス王国南に位置する海の町スフラが魔物に襲撃されているそうです。敵は魔物と人間と思しき者の混成軍で負傷者数不明、被害状況は町は壊滅的とのことです。スフラから逃れてきて少女が傭兵所にて保護されており、その傍らに金髪の女性・・・特徴から察するにルルがいるようです。」
「事情は分かりました。すぐに向かいます。」
「わ・・・たし・・・も・・・行く・・・わ・・・。」
何がどうしてこうなったのか、母上とリリムは離宮の地下訓練場・・・という名の母上特性魔法研究所兼実験室兼闘技場にいた。そして、ボロ雑巾のように地面に突っ伏している母上と、汗をかきながらも涼しい顔をしているリリムがいた。
リリムは問題なさそうだが、母上は生きているのかも怪しいくらいにボロボロだったのだが、突如光に包まれ、服も体も傷一つ無い状態に戻っていた。
「範囲型回復結界。姉様が組んだ理論を完成させたと聞いたときには疑っていましたが、こうやって見たら納得の出来ですね。即死さえしなければ結界の続く限り自動で回復してくれる。鍛錬所としては素晴らしい空間なのですが、姉様は結局作り上げることが叶わなかったというのに・・・。」
「円柱状の空間設置型にしようとしていたせいでルル様は上手くいかなかったのだと思いますわ。地面に魔法陣を埋め込んだ球体結界型にしたら上手くいきました。後でルル様には論文をお渡しいたします。まぁ、この結界があるからといって、リリム様の愛・・・もとい修行を受けて即死しない人は限られているでしょうけど。」
子供のころから僕もここで鍛えられたので、この結界の凄さはよくわかっている。それこそ、腕を切り落とされても回復するのだから、限定的にだがルルやリリムの体質のような状態を感じることができるのかもしれない。ルルとリリムは痛みを感じる前に元に戻るらしいので少し違うかもしれないが。
そんなことを思いながらも、二人を引き連れて傭兵所へと向かった。
アガレス王都傭兵所。ここに集まるのはアガレス王国に所属している傭兵や冒険者だ。各所から上がる依頼をこなし報酬を得たり、近隣の魔物討伐や荷物運搬、あるいはその護衛であったり遺跡の調査など、仕事内容は様々だ。
王命の下、国防のために動く騎士はどうしても小さな事件に対応できないため、傭兵や冒険者の存在はとてもありがたく、頼りになる存在だ。
そして、そんな傭兵所内では現在、スフラ奪還へと向かう人員を集めているところだった。僕達は裏口から中に入り職員に案内された部屋へ向かうと、ルルと、もう一人少女が中に座っていた。
「ルル様!お懐かしゅうございます。エレナです。」
「エレナ!?久しぶりね!そういえばあなた、この国の貴族だって言っていたわね。コロン、この人たちは私の妹と、仲間と、・・・えっと・・・知り合いよ。」
ルルがコロンと呼ばれた少女に対して順番に教えていったのだが、母上をどう説明したらいいのか分からなかったのか若干言葉に詰まっていた。ルルからしても、母上は弟子という認識ではないらしい。
話を聞くとコロンはスフラから王都まで歩いてきたという。にわかには信じがたいがスフラの現状を鑑みれば、子供でもそんな無茶をせざるを得ないのかもしれない。
「私はコロンに助けて欲しいってお願いされたから、この後スフラへと向かうわ。下手に人数集めても邪魔になるだけだから、傭兵や冒険者の方たちにはここで待機してもらうよう職長さんに依頼したのよ。それで、あなたたちはどうするのかしら?」
ルルは僕と母上のほうだけを見て意見を伺っている。リリムの方を見ないのは、聞かずともついてくると分っているからだろう。
「当然、僕も行く。」
「私も向かいます。」
立場的には母上は向かうべきではないのかもしれないが、襲われたのが昔、母上が救ったスフラの町であるならば、僕らでは気づけないような何かにも気が付くかもしれない。
昨日までとは違い、いつものお淑やかな感じで母上はルルと打ち合わせを始めた。どちらが本当の姿なのかは分からないが、おそらくこのお淑やかな状態は外行きの顔だろう。
この部屋には自分たちしかいないが、どこから聞きつけたのか、アガレスの魔法神を一目見ようと人が集まってきている。そんな中で昨日のような話し方をしていたら、色々と問題あるのだろう。
「問題は人と魔物の混成というところですね。魔物を使役する魔法は確かに存在しますが、かなり上位の魔法だったと記憶しています。」
「そうですね。私やルル様はもちろん使えますが、普通の人が気軽に使用できる魔法ではありません。術者は高位の魔法使いと想定して、見つけたらグラ以外の誰かが戦うようにするのが賢明だと思います。」
「エレナ、あなた戦えるの?私の記憶を転写しているとはいえ、それほど体も強くなかったでしょう?」
「大丈夫です、姉様。最悪私がエレナもろとも消し飛ばしますので。」
そんな作戦会議といっていいのか微妙な話を終わらせて、4人でスフラの町へと向かうことにした。
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