77.雷の竜神テイルトール
※以前執筆していた作品の94話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「ふむふむ・・・。この模様が記号になっていて、それで自分がどこにいるのか分かるようにしているみたいね。」
砦内部の作りはどの階層も全く同じ作りな上、狭い通路が細かく曲がっていたり分岐していたりと軽い迷宮のようになっていて、曲がり角の足元に小さな模様が入っていてこの模様で階層や場所を判断しているようだ。
急ごしらえで作り上げたという割にしっかりと作り込まれているあたり、おそらくはアガレス王国では普段からこういった砦作りをしているのだろう。
今までも何度か各国の砦に潜り込むことはあったけど、外装部はともかく内部までしっかりと作り込んでいる砦は珍しいと思う。
とにかく兵士の数が少ないアガレス王国だからこそ、大人数同士でぶつかることを避けねばならず、籠城のしやすさと内部まで入り込まれた際の少数戦のしやすさを優先しているのだろう。
「そしてここが最上階・・・よね?外から見た感じと中を登ってきた感じからしても・・・。」
最上階は予想通り、天井が崩れ雨曝しの状態になっていた。焼け焦げた臭いと雨が絡みついてきてなんとも鬱陶しい。そして、少し進んだところに真っ黒に焼け焦げている何かが落ちていた。
確認してみるとそれは召喚獣の死体のようで、どんな形をしていたのかは分からないほどに崩れている。おそらくは先ほどの雷とともに落ちてきたのだろう。だが、雷に打たれて落ちてきたというよりかは・・・
「そいつは俺の祝福を纏わせて突撃させたんだぜ。」
「やっぱりあなただったのね。久しぶりねテイルトール・・・500年振りってところかしら?」
昔と変わらない、下半身に黒い水着を1枚纏っているだけの裸禿筋肉達磨のこの男は、魔王の眷属にして雷の竜神テイルトール。召喚獣に雷の祝福を纏わせて攻撃してくる上に、自身も雷の速度で殴り掛かってくる化け物だ。
「最初はちょっと手を貸す程度だったんだけどな。お前たち二人が来てると聞いてな。挨拶がてら少しばかりちょっかいを出させて貰った。」
「いいのかしら?そのちょっかいとやらのせいで、そちらの軍勢は壊滅しているけれど?」
今までの召喚獣だけの軍と違い、リリムが蹴散らしている軍は普通の人間も多く混ぜっていた。恐らくはシトリ教国の軍勢だろう。正規軍か傭兵かまではわからないが、かなりの人数がここで散ることになる。
「別に構わんさ。どのみちこの戦争はお前たちが参加した時点で決着がついているようなものだからな。昔と同じで殺しをしたくないなんて甘いことを言わない限りな。」
そうだ、私がこの男を殺さなかったせいでリリムを失いかけた・・・。呪いのおかげで死ぬことこそなかったものの、100年以上癒えなかった傷を与えられてしまった。
「あぁ、安心しろ。もう俺はお前たちに喧嘩を売るつもりはない。さっきちらっとリリムを見てきたが、あれはもう俺より強いな。勝つ手段が無いわけじゃないが・・・ま、めんどくせぇ事は好まない。俺はここらで帰らせてもらうぜ。」
「待ちなさい。あなたの・・・あなたたちの目的は何?ことと次第によっては、私も本気で闘うわよ?」
あなたたちとはもちろんシトリ教国のことではなく、魔王率いる魔族軍のことだ。見た目以外完璧なこの魔王の右腕が、何故この戦争に参加しているのか。もし、その目的が氷の蛮人と似たような目的であるならここで見逃す訳にもいかない。魔王には少し申し訳ないが右腕を失ってもらうことになる。
「おいおい・・・そんな怖ぇこと言うなよ・・・。シトリ教国とバエル王国の宝物庫にちょいと用があってな。ついでにアガレス王国にもお邪魔できればと思ったんだが・・・まあそっちは諦めるさ。じゃあな!」
「逃がしません!」
雷化して空へと逃げ出したテイルトールを、さらに上空に真っ赤に染まったリリムが現れ、テイルトール蹴り飛ばして私の眼前に無理やり戻した。さすがにリリムがここにくるのは予測していなかったのだろう。驚きながらも立ち上がりつつ、状況を整理しているようだ。
「少し長話が過ぎたか?・・・まあいいさ。一応言っておくが、俺が戻らなかったらこの軍の大将の命は保証されないぜ。」
テイルトールの言葉に戦慄する。そういえば先ほどからエレナの姿が見えない。どこかで戦っているものだとばかり思ってあまり気にしていなかったが・・・
「魔王様が用があるみたいでな。事が済んだら帰すつもりだが、俺が殺されたとなれば魔王様もどう動くかわかったもんじゃないな。たとえお前たちが相手でも・・・さ。」
単純な生死をそのまま勝敗とするならば、私は魔王にも勝てる。だけど、その争いの結果どれほどの死者が出るか・・・どれほどの大地が荒廃するかは想像もつかない。ならば余計な手出しはせずにこのまま帰してしまったほうがいいのかもしれない。
「・・・いいわ。逃げなさいテイルトール。それと魔王に伝えてくれるかしら。あなたたちが売ってきた喧嘩・・・高く買うと!」
取り合えず爆炎でテイルトールを吹き飛ばし、そのままフラフラと空へと逃げていくのを見送った。
「さて、これからどうしましょう・・・。敵のほうは雷の竜神を失い、こちらはエレナを失った。軍を率いる者がいなくなってしまえば、アガレス王国の兵士は身動きが取れなくなる。代わりの将がいるのかは分からないがエレナほどの力は持っていないでしょうし・・・。」
「ノエルに伝令を送っていたそうですから、そちらの判断を待ちますか?」
一先ず、空中戦を終えて戻ってきたグラとシール君に今のことを伝え、今後どうするかを相談してみた。
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