73.見えない思惑
※以前執筆していた作品の90話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「リリムも同じだからね。さっきお腹を貫かれたでしょ?あれは・・・」
「あれは私の油断です。無茶をしたというよりかは未熟故の失態ですから姉様とは少し違います。・・・とはいえ、反省すべき点ですね。」
そんな会話をしている二人を後目に、ルルをどうやって運ぼうか悩む。心情的にも僕が運んであげたいのだが、身体強化をしてもそれほどの速度が出せない僕が背負って行くと進行に大幅な遅れが出てしまう。
「いや、ていうかさ・・・馬はどうしたの?」
シールに言われてふとその存在を思い出した。そういえば熊に遭遇して逃げ隠れていた時に、自分とは別に馬にも気配隠しと姿隠しの魔法をかけていたはずだ。だが辺りを見渡して探してみてもどこにもいない。
もしかしたら魔力無効化の範囲内に入ってしまい熊にやられたかもと思い、死体の中を探してみたがそこにもいない。
「・・・ん?シール、リリム、鳥の魔物は何体いたって言っていた?」
「んー・・・?8体だよ?全部ルル姉が倒したんだから、ほら。死体が・・・あれ?」
「1体分・・・足りませんね・・・。」
これはどういうことだろうか?確かにルルが空に舞う鳥たちを全滅させたのは見ていたし、戻ってきてから逃げ出した奴はいなかったはずだ。となると、僕らが離れている間に1体だけ逃げ出したことになるが・・・それが意味するところが何なのかがわからない。
「その1体が実はウァレフォルの鳥翼の民で、途中で逃げ出したとか?」
その可能性が一番高いだろう。そして、それならば熊たちが魔力無効化の障壁を纏っていたことも説明が一応つく。
鳥翼の民は魔法で狙われることが非常に多いため、魔力無効の障壁を纏っている個体が多い。そして、その者が術者となって熊たちが転移してきた後に障壁を張ったのであれば、転移魔法で飛んでこれたのも納得できる。
とにかく、わからないことをこの場でいつまでも悩んでいるより、一先ずは当初の目的通り前線に、母上の軍に合流しよう。シールに再び神速の祝福を掛けてもらい、僕は自分が出せる限りの速度で進み、それに二人が合わせる形で目的地を目指した。
「おかしいわね・・・。周期的にそろそろだと思っていたのだけれど・・・。」
当初はシトリ教国との国境で戦っていたというのに、気がつけばリュフカの町に敷いていた防衛線すら割られてしまった。このままでは陛下にもノエルにも顔向けできない。
ここまでは兵力をいたずらに削るわけにもいかず撤退していたが、これ以上は撤退する訳にはいかない。ここを破られてしまえば王都まで届かれてしまう。
こうなってしまった原因は二つある。一つはウァレフォルの竜人の民、数体退けることには成功しているが、こちらの防御魔法を貫くほどの火力が兵士たちを襲い、負傷者が相次いでしまった。
そしてもう一つが謎の熊の化け物である。魔法が一切効かないため私の火力が意味を成さない。
地形に変化を及ぼす土魔法を使い深穴を掘り、土を積み上げて柱を作ったりして平原を迷宮のように作り変えてみたり、暴風雨を起こしてみたり、吹雪を起こしてみたりして何とか追い払うことは出来ているものの、時に無理やり進軍してきたりしてジリジリと防衛線を下げられていた。
だが、戦う中で気がついたことがいくつかある。まず、竜人の民は参加人数が少ないのか、同じ者が何度も襲ってきていた。大きく負傷した者はしばらく戦線に戻ってこれないため、戦争開始直後に比べ襲撃の数も格段に減ってきていた。
そして、熊の方は現れてからおよそ四時間ほどで魔法無効の効力が切れるようで、切れる前に撤退してくれるため、現れてから四時間粘ればいいことに気がついた。
そして、熊が襲ってくる周期も二週間に一度くらいなので、その間に罠を仕掛け時間稼ぎをすることも出来ていた。
「辺りの様子はどう?別の方角から現れたりしていない?」
「いえ・・・遠視も使って確認しているのですが、シトリ教国の兵やウァレフォルの獣戦士は見かけられますが、熊と竜人族はどこにも・・・。」
数人の見張りの兵に確認をしても、皆同じような答えを返すばかりだった。前回の襲撃から二週間が経ち、そろそろ現れてもおかしくないのだが一向に現れない。
「出来れば、竜鱗の民が復活する前に攻め入って起きたいのだけれど・・・こちらの思惑まで読まれているのかしら・・・。」
今、全戦力を向けられたらここも危ういかもしれないが、敵からしたらここを突破したところでまだ水の竜神もいるし陛下もいるのだから、むこうも今この場で兵を削るわけにはいかないのだろう。
それに、魔法を無効化できない兵士たちは1度、私を筆頭にしたアガレス王国の魔法軍隊で殲滅することが出来たため、迂闊に近寄ってきたり攻め入ったりはしてこないだろう。
とにかく一瞬たりと油断してはいけない。もしかしたら遠回りをして後方から虚を付かれるかもしれないと思い、辺りを見渡していたら懐かしい顔ぶれが、ものすごい速度でこちらへ向かってきているのが見えた。
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