72.ルルの秘策
※以前執筆していた作品の89話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「これは・・・アダマントの戦斧か・・・?って重っ!?」
ルルが作り出した戦斧は軽量化が掛けられていないせいかすさまじく重く、何とか持ち上げるのがやっとだった。いくら増力の魔法を使えるとはいえ、リリムがこれを振り回せるとは思えないのだが・・・。
「何を言ってるのよ。これは私が使うのよ?」
何の冗談だろうか?ルルは単純な筋力だけなら僕よりも劣っているし、身体強化を使えるとはいえこれほどの戦斧を使いこなせるとは思えない。
だが、ルルのことだ。何か秘策があるのだろう。とりあえず戦斧を収納魔法の中にしまいこみ、再び戦場へと戻る。今度は気配を隠して移動する必要もないのでルルが僕を背負う形で戻っていく。
ちなみに斧が真っ黒なのは、そのほうがかっこいいから染色しただけだそうで、特に意味はないらしい。
「僕はもうだめだー!風の制御が効かなくなってきてるー!恨むぞエリアスー!!」
シール君が喚きながら風で熊を飛ばしていく。魔法を無効化されない場所から突風を起こして吹き飛ばしているのだが、その威力も精度も方向もだんだんと荒くなってきている。
「それでも、耐えるしかありません。最悪私が盾になりますからもう少し頑張りなさい。」
とはいえ、私の方もなかなかに苦しい。シール君と違い遠距離から弾くことが出来ないため、ひたすら攻撃を躱しつつ、時に相討ちをさせるのが精一杯だった。
とにかく今は姉様が戻るまで耐えるしかない。或いは何か弱点とまではいかないまでも、打開策を見つけることは出来ないだろうか?
だが、その色気を出してしまったのがまずかった。先ほどまでは距離を保つことで何とか躱せていたが、至近距離まで、魔力無効化の範囲内に入ってしまうまで近寄られてしまった。
「しまっ・・・魔力が・・・増力が消え・・・。」
気が付くのが一瞬遅れてしまった。そして、その一瞬の隙をつかれてしまい熊の鋭い爪が腹を貫き、口から血を吐きだしてしまった。
魔法を封じられていると、呪いの効果が出るのがいつもより少しだけ遅い。そのせいで痛みと貧血で気を失いかけるが、呪いの力によってすぐに出血が止まり痛みも消えたおかげで、かろうじて意識をとどめることは出来ている。
しかし、これは自分ではどうすることもできない。根深く刺さってしまった爪を引き抜こうにも、増力も身体強化も出来ない体では引き抜く力などなく、いっそ熊が暴れてくれればその拍子に抜けるかもしれないのだが、それが分かっているのか私を貫いたまま動かなくなってしまっていた。
「いや、これは・・・死んでいる・・・?」
ふと見上げれば熊の首から上が無くなっており、周りを見れば同じように首がなかったり、体が真っ二つに裂けている熊までいた。
「遅くなってごめんなさいリリム。あと、その熊はもう障壁も残ってないと思うから、魔法が使えると思うわ。」
身長の1.5倍くらいの真っ黒で大きな戦斧を担ぎ、いつもの余裕の笑みを浮かべている姉様に声を掛けられ、体に魔力の流れが戻ってきているのを確認する。
見るからに重たいであろう戦斧を軽々と扱えるほどの筋力など姉様にはあるはずがない。身体強化をしているとしても、これほどの物を持ち上げられるものだろうか・・・。
だが、姉様は片手でくるりと戦斧を回すと地面を蹴り跳び、一体、また一体と、熊を切り捨てていった。
死んでいる個体はともかく、生きている個体には未だ魔力無効化の障壁が残っているというのに、気が付けば熊どころか、上空にいた鳥までもが全て切り倒されていた。
「姉様、その斧を貸して頂けますか?」
了承を得る前に奪うように斧を手に取ってみたが、あまりにも重い。身体強化に増力をしてやっと担げるほどの重さだった。
こんなものを振り回すことが出来るようになってしまった絡繰りを問いただせば、返ってきた答えはすごく危険で無茶な方法だった。
「別に、それほど不思議な話じゃないと思うのだけど・・・単に魔導線を筋線維に絡ませただけなんだけれど・・・。」
つまり、筋肉そのものを魔法で作り上げ強化した・・・といったところだろうか。
だがそれはルルが言うほど簡単な物ではないはずだ。以前僕も同じようなことを思いついたことはある。陛下や兄上に比べ明らかに筋肉の質が劣っている僕が、二人に力で追いつくために出来ないか母上に聞いたことがある。
そして、その時返ってきた返事は強い叱責を伴った否定であった。まず、筋肉を魔法で作り上げて操るなどということは不可能に近いうえ、いたずらにやってしまえば大きく体を傷つけることになる。最悪、二度と身動きが取れなくってしまうと聞かされている。
普通の身体強化やリリムが使っているような増力は、体の外側に纏う力であるためそういった危険性が比較的低い。
母上程の魔法制御能力を持っている者ですら、そんなことをすれば数秒もしないうちに体が内側からボロボロになってしまうと言われた。
そして実際、ルルの体はひどく傷ついていたのだろう。ルルの服が赤黒く染まっており、それは体中から出血をしていたことを意味している。
表情こそいつもと変わらないがよく見れば少しばかり顔が白くなっていおり、貧血を起こしているのかふらふらとしだした。
「アダマントはね、魔吸の金属なんて言われ方もしていて、結界や障壁を破ったりするのに最適なのよ。欠点は魔法を刻めないから軽量化とかも出来なくて重くなったりすることなんだけど・・・あの・・・どうしてみんなそんな怖い顔をしているのかしら?」
"私なら呪いの力で回復するから大丈夫"とルルが笑ったところで、思わずルルの頬を叩いてしまいそうになる。
それでも、彼女がここまでの無茶をしなければこの状況を打開することはできなかったかもしれないし、そこまで頑張ってくれたのだからこれ以上責め立てるのはやめよう。
「ルル・・・ありがとう。でも、二度とこんなことはしないでくれ・・・。呪いで回復するからと言って、傷つかないわけじゃない。痛みを伴わないわけじゃない!僕たちももっと強くなるから・・・君がこんなにも傷つかないように強くなるから・・・!」
だから、無茶をしないでくれと・・・気が付けばルルを強く抱きしめ懇願していた。愛する人が傷つくことがこれほど辛いとは思わなかった。ルルでも、こんなにも苦しまなければならないことがあるなんて思わなかった。
「そう・・・ね・・・。少しばかり疲れたかしら・・・。悪いけど、少し、休ませてもら・・・う・・・わ・・・。」
そういってルルはそのまま体を預け、目を閉じ脱力していった。
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