71.魔封じの熊
※以前執筆していた作品の88話を一部加筆修正等加えて再投稿しているものです。
「それでは兄上、行ってまいります。」
スフラの町に着いた翌朝、馬を一頭借りて僕がそれに乗り、三人は走ったり空を飛んだりしながら進行していく。
一先ずはリュフカの町を目指しつつ、その手前で戦っている母上の軍と合流を目指す。町を守る結界から出てすぐに召喚獣の群れが襲ってきたが、軍列を成しているとはいえ丸ごと焼き払われてしまえば意味もなく、現れた端からルルに屠られていた。
「とはいえ、少々になりますね。召喚の魔法陣がこれほど大量に表れているというのに、近くに召喚術士の気配はまったくしません。」
それは確かに昨日から気になっていた。以前スフラを襲ったような、予め召喚していたのならともかく、周囲に現れている召喚獣はその場で魔法陣が組まれて召喚されている。
遠距離での召喚術が無い訳ではないが、それにしたって限度がある。少なくともこちらの前線より奥からここまで届くようなことはないはずだ。
「考えられるとしたら、召喚魔法陣を転移魔法で飛ばしているとかかしら?魔法転移は確か昔研究していた人がいたわ。」
「それでも限度ってもんがあるでしょ・・・。グラっちは逆探知とか出来ないの?」
シールが疑問を投げかけると同時に、また召喚獣が出てきたため逆探知を仕掛けてみる。魔獣の軍のど真ん中に身を置いて調べているので、普通なら危険すぎるというか即死してもおかしくない状況なのだが、共にいるのがこの三人なのでその辺の心配はまたくしていない。
だが、当然と言えば当然だが相手方も逆探知の対策はしっかりと行っているようで、どこから転移してきているのかはざっくりとした方角くらいしかわからなかった。
「方角はシトリ教国の方だけど正確な距離までは分からないな・・・。本命はシトリ教国国内だろうけど・・・。」
「そもそも召喚術士とかってどういう感じの人なの?」
シールの疑問はもっともで、敵に召喚士や転移魔法の使い手がいることは分かってもその人相などは当然分からないし、だからといって片っ端から潰していくという訳にもいかないだろう。
「そうねぇ・・・人相は分からないけど、召喚魔法は土と闇の上級魔法を合成した物だから、その両方に適正を持っている人が召喚術士じゃないかしら。だから、魔法使いとして優秀そうな人を倒せばいいのよ。」
「転移の方を使用している魔法使いは、おそらく召喚術士と一緒にいると思われます。召喚術士を見つけたらその周りの人も纏めて倒せばいいかと。」
一人でその全てをこなしている可能性もあるが、それならそれで狙いが絞れて楽な話でもある。
そして、もうまもなく前線に着くという所でまた召喚魔法陣がまた現れたのだが、出てきた魔物はいままでと形相が明らかに違っていた。
今までは狼型や人型に近い形をしていたのだが、目の前に現れたのは3メートルを楽に超えるだろう大型の熊であった。だが両手の爪は普通の熊より明らかに鋭く、触れただけで全てを切り裂いてきそうなほどだった。
そして目の前に見えるだけで12体、背後にも気配がしたので振り返ればさらに多くの熊が召喚されており、気が付けば周りを囲われていた。
「ついでに空にはよくわからない鳥みたいなのが8体いるね。ルル姉どうす・・・る!?」
とりあえず撃ってみたというルルから、横向きの火柱が砲撃のように放たれており、その一発がシールを掠めたらしく文句を言っている。
だが、そんなことよりも、ルルの砲撃を喰らったにも関わらず熊は一体も倒れることなく襲い掛かってきた。
「これは・・・姉様の攻撃が避けられたのでしょうか?」
「違う!魔法を弾かれているわ!たぶんエレナ対策で作られた魔物よ!」
ルルの言葉を聞き確かめるようにシールが風の刃を飛ばす。だがその刃は熊に届く直前くらいで消失してしまった。
「完全魔力無効化障壁を張られているみたいだね。一定時間限定だけど対魔法としては最強と言われている防御魔法だよ!突破する方法は物理攻撃をするか、いつ切れるか分からない障壁が切れるのを待つかの二択!」
それは・・・すごくマズイのではないだろうか?姉妹の物理的な攻撃はリリムの攻撃くらいだし、それも闇魔法で増力をしての一撃のため熊に届く前に増力を消されてしまうだろう。そうなれば普通の筋力であの熊を貫かねばならなくなる。さすがのリリムでもそれは無理難題のようで熊の攻撃を躱す一方になっていた。
「通常はこの障壁は持って三十秒から一分くらいだけど!なんか切れる様子が無いね!」
「くっ・・・!増力が・・・!ダメです!私の筋力だと貫けません!」
熊に囲われて姿が見えなくなってしまったリリムの叫び声が聞こえる。これほど焦っているリリムは見たことが無い。
「というか、グラっちの姿も気配も何も見えないんだけど!?一人で隠れてない!?」
別に隠れているわけではないんですよ?ただ僕の耐久力じゃ一撃喰らうだけで死にかねないし、こうやって姿を隠すことで隙を伺っているだけなんですよ。まあ問題はその隙とやらがまったく見えてこないことなんだけど・・・。
僕の持っている短剣も結局の所魔法で強化する剣なので、熊に届く前に力が消失してしまうだろう。魔力無効の効果範囲は熊の体すぐ近くなので、弓などがあればリリムの増力が消されない範囲から攻撃も出来るのだろうが・・・それでも矢に魔法が乗らないから意味をなさないかもしれない。
「グラ!私の姿を隠して遠くに運んで!リリムとシール君は私が戻ってくるまで耐えて!」
ルルが反撃の一手を思いついたのだろう。その風に乗せられて届いた声を聞くと同時に、シールが神速の祝福を僕に使い突風を起こして道を作る。そしてルルを抱えて熊の視認範囲から大きく離れた位置まで移動した。気配も隠していたので熊や鳥に見つかった気配は今の所ない。
「それで、どうする?時間を作るなら全員で逃げたほうがよかったんじゃ・・・」
「全員で逃げたらこの群れがエレナの方へ行くわよ?そうなったらそれこそ絶望的だわ。それに、アレを突破する方法はあるわ。」
そういってルルは収納魔法の中から、見た事のない金属を取り出して鍛冶魔法を使い始めた。恐らくは武器を作って攻撃するつもりなのだろうが、あの熊は物理的な硬さもかなり高いだろう。
「さっき魔法の無力化範囲の距離を測ったわ。範囲はおよそ1.5メートル。つまり、その外側からなら魔力を無効化されないわ。」
そういってルルが作り出した武器は、2メートルを超える巨大な、黒い戦斧だった。
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